株式会社 TBS テレビ
番組演出・プロデューサー

※役職等は収録当時のものです

中島 啓介さん

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2004年アテネ五輪自転車競技 銀メダリスト
株式会社2020代表取締役社長

※役職等は収録当時のものです

長塚 智広さん

G プレス | 2016年5月16日
GPRESS vol.135 テレビの力とスポーツの力

テレビの力とスポーツの力

インターネットの普及により、 テレビを取り巻く環境も変化しています。 一方、 2020年の東京五輪を前に、スポーツとテレビの関係も注目されています。 テレビの未来の可能性を、株式会社TBSテレビ次世代ビジネス企画室の中島啓介さんと、 2004年アテネ五輪の自転車競技銀メダリストで、 一般社団法人アスリートソサエティ理事の長塚智広さんに語ってもらいました。

GPRESS vol.135 / 2015年2月13日、 電通ホールで行われた講演 より
中島 啓介さん

株式会社 TBS テレビ
番組演出・プロデューサー

バラエティ制作局を経て、2012 年に次世代ビジネス企画室へ異動。以降「リアル脱出 ゲームTV」「ジンロリアン~人狼~」「マッチング・ラブ」 など企画・プロデュース。セカンドスクリーンとテレビとを連動させた新たなテレビ体験の開発を目指す。

長塚 智広 さん

2004年アテネ五輪自転車競技 銀メダリスト
株式会社2020代表取締役社長

17年間プロの自転車競技者、競輪選手として活躍。競技ではG1朝日新聞社杯優勝、五輪には、2000年シドニー、04年アテネ、08年北京の3大会に連続出場し、アテネ五輪ではチームスプリントで銀メダルを獲得。2015年1月に引退。現在は、一般社団法人アスリートソサエティ理事をはじめ、チームジャパンリーダー、一般社団法人PRPスポーツ再生医学研究所理事を務める。早稲田大学大学院卒。

■株式会社TBSテレビ次世代ビジネス企画室 中島啓介さんの講演より

テレビ×ウェブ、今後の可能性。

 TBSに入社して6年、番組を制作してきた立場として、テレビ番組というソフトの視点から、ウェブと掛け合わせることで生まれる今後の可能性について、お話しさせていただきたいと思います。さまざまな業界にとって、ITの技術は重要になっていますが、テレビ業界も同様、エンターテインメントとして、またマーケティング的な視点での掛け合わせの係数として、ウェブはとても重要になってきています。そして、これから先もっともっと重要になってくるでしょう。

ウェブと連動した視聴者参加型ドラマを企画。

 僕の作った番組で事例を説明させていただきますが、昨年の12月24日、クリスマスイブに視聴者参加型のドラマ「マッチング・ラブ」を、ベッキーさんと平岡祐太さんの主演で深夜11時53分から放送しました。 
 架空の恋愛サイト「マッチング・ラブ」で、恋愛に関する15の質問に答えていくと、100万分の1の確率で運命の人をこの世界から見つけ出す、という内容です。今回のドラマが画期的なのは、放送時間帯に実際にそのサイトを立ち上げて、視聴者がドラマの登場人物と同じように運命の人を探すことができることです。ニックネーム、性別、年齢、居住する都道府県、写真を登録することで、ドラマの進行に合わせて、スマートフォンや PCから、このマッチング恋愛プログラムに参加ができました。ーマーケティング視点でも活用。 このサイトに参加したのは、放送時間90分、CM時間を除く約1時間で14万6449人でした。
このドラマでの試みはエンターテインメントとしてとても面白いものでしたが、マーケティング的視点からも可能性がたくさん詰まった番組といえます。
 実際、トライアルとして、ドラマの合間で放映された「プリウスα」のCMとの連動企画を用意しました。「マッチング・ラブ」の15の質問中、1問をCM内で「プリウスαでドライブデート。運命の人と行きたいのはどこ?」という質問に、「スキー場、温泉、海」の3択で答えてもらいました。
 回答者の年齢は 20、30代がメインで、結果は温泉がもっとも多く、スキー場は一番少なかった。 40代以降はこういったコミュニケーションに参加される方が少ないので、視聴者層と必ずしも一致したデータではないですが、若者層の大量数のデータが取れるという意味では非常に有益で、彼らの嗜好(しこう)を探ることができます。

質問結果から視聴者の顔が見えてくる。

 ここで、重要なのが、例えばメールマガジンなどでプレゼント企画を用意しても、わずか1時間で約15万人の登録者を集めることは可能なのかということ。 その点、今回のドラマは全国ネットではありませんでしたが、エンターテインメントという枠組みにくるむことで、その数を難なく獲得することができた。 
 結果から年代別や居住地域によっての属性をさらに分析することもできますし、もし商品の開発段階で設問を「あなたが乗りたい車は何色ですか?」とすれば、結果は企業にとっても大きな重要性を帯びてくると思います。 
 まとめると、一つの簡単な問題をとっても、さまざまな切り方ができて、細かく視聴者の顔が見えてくる。エンターテインメントだけではなく、マーケティング要素としてこういった属性データを活用することで、テレビ×ウェブはまだまだ可能性を秘めているのではないかと思っています。

■一般社団法人アスリートソサエティ理事長 塚智広さんの講演より

今はスポーツが注目される好機。

 現在、健康志向の高まりと共に、スポーツ気運が高まっています。そして、2020年に東京五輪開催が決定したことで、さらにスポーツへのムーブメントが起きています。
 ここで私は、メジャースポーツだけではなく、マイナースポーツや地方で活躍する選手にもスポットを当てることが、スポーツ界全体の盛り上がりと、東京だけではなく地方の活性化につながると考えます。

スポーツの力とは?

 初めに「スポーツの力」とは何か。まず、スポーツが普及すると各種イベントの関連商品が売れたり、自治体が設備を整えるなどして経済が活性化します。
 特に大事だと思うのが、スポーツによる教育です。ある論文によると、子供たちの運動不足は脳にも影響を与える、ということが発表されています。
 さらに、スポーツはメンタルを強くします。私は、早稲田大学の大学院を2012年に卒業しましたが、折りしも前年に東日本大震災が起こったことで、自分の経験から、「被災地におけるトップアスリートによる継続スポーツ教室の効果」を研究テーマにしました。

スポーツを通した被災地への取り組み。

 東日本大震災は、地震、津波、放射能汚染と世界に類を見ない災害だったので、子供たちの心に大きなショックを与えました。
 ニューヨークの同時多発テロや北海道南西沖地震などで、大きなショックを受けた子供たちのために、被災地などで、多くのトップアスリートがスポーツ教室を開催しましたが、一度だけでは子供たちは根本的には変わらない。むしろ、二度と来てくれなければ、子供たちは不信感を持ってしまう。そして数年後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースが多いということです。 今回、私も陸上を中心とした日本代表級のトップアスリートと定期的な指導を行って、どんどん 技術が上達していくことで、子供たちが生きる気力を取り戻していく手応えがありました。こういう困難な状況に打ち勝つ力を作っていくためには、子供たちにスポーツが素晴らしいことを、 2020年のオリンピックに向けて、メディアの力をお借りしながら、訴えていきたいと思っています。ー地域のアスリートを育てよう。 2020年の東京五輪に向けて、日本全体で盛り上がっていかないといけないのですが、地域にいるマイナー競技のアスリートたちをもっと盛り上げていかなければいけないと思うんですよね。キー局の威力はもちろん強いわけですが、地方局の方たちがアスリートを育ててほしいんですよね。
 フェンシングは日本ではマイナー競技だったわけですよね。太田雄貴選手がメダルを取って、オリンピック誘致でも活躍して、スターになった。マイナー競技のスターを作るっていうのは大事なんですね。他の競技にも面白いやついるんじゃないの、というのを探している状態なんじゃないかと思いますね。

アスリートが地域のセールスマンになる。

 海外ではアスリートのステータスが日本よりもすごく高いんです。私も自転車が盛んなヨーロッパに行ったら、「サインしてください」「写真撮ってください」とか注目を浴びます。マイナー競技でも世界選手権に出場するアスリートもたくさんいる。
 私も銀メダルを取ったとき、「日本人で体が小さいのに、なんでそんなに速いんだ」と聞かれて、「納豆と梅干しを食べているからだ」と答えたんです。すると、世界のアスリートの中でうわさになって、納豆と梅干しの素晴らしさが世界に伝わっていったんです。 このように選手たちが海外に行って、地域のことを発信していけば、地域のセールスマンになれる。地域のアスリートを盛り立てることによって、地域の活性化になっていくということだと思うんですね。ースポーツの力を発揮するためにテレビの力を。 こういった「スポーツの力」を発揮するためにも、メジャーだけではなく、マイナーの認知度を高めることが必要不可欠です。その手段として、
メディアはもっとも有効な手段だと思います。
 特にマイナースポーツのアスリートは、「種目をみんなに知ってほしい」「地元に貢献したい」という願望を持っていますが、実際どうしたらいいか分からない。
 しかしテレビで紹介されると、おのずと認知度が上がり、人気スポーツになる。競技のなかでスター選手を作るのは大切なことだと思います。

ー貴重なお話をありがとうございました。

文・写真 猪狩淳一