G プレス | 2016年12月15日
Gプレス シェイク! Vol.6 記事 (3)

シェイク!Vol.6 どうしたら作れる、面白い企画
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)
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米光一成(ライター)
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佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.6 「どうしたら作れる、面白い企画」のトークセッションの模様3回目は、普段どんな発想で企画を思いつくのか、三者三様の発想方法が明らかに!

教えて! 発想のコツ!

伊藤
皆さんに絶対聞こうと思っていたことがあります。企画をひらめく瞬間や普段からこういうことに気をつけているというような発想法を聴きたいです。

先に僕から言うと、企画を書くときは、自分をリアクターとして考えます。ある現象を見て面白いと思ったことをなんとなくでも良いので気に留めておくようにしています。

例えば、『モヤモヤさまぁ~ず』とは全然違う番組をやっていたら女の子のADがお酒を飲んで終電がなくなったので中野から阿佐ヶ谷まで酒場放浪記みたいに見かけたお店で一品と一杯を頼んで次の店に行くというのをやったと聴きました。それを聴いて「これはいいな」と思ったんですね。知らない店を発見して「美味しかったです」と言っているのは面白いなと思って、それで「一駅区間を歩く番組を作れないかな」と思って生まれたのが『モヤモヤさまぁ~ず』なんです。

そういうこともあって、他の人から聴いて自分が体験したら面白いと思うことを「きっと自分だけがそう思っているんだ」と信じてそのままストレートに出すようにしています。いまは一周回ってむしろ自分が面白いと思ったことをストレートにやったほうが人気になる。歳をとればとるほど色々考えちゃうので。ストレートに出すことを心がけています。


佐藤
誰かの言った言葉がヒントになることは多いんですか?


伊藤
若い人は最近、おもしろいことを「ヤバイ」って言いますよね。意味がわからないことも多いし、イラッとくることもあるけど、何かのヒントなんだと思うことにしています。


米光
そういうのはありますね。「この人、なんでそんなこと言うんだろう?」ってことを考えるのが好きなんです。10年ぐらい前に、「僕の授業どうだった?」って聴いたら学生のひとりが「普通に面白かったです」って言う。表情は褒めてるのに「普通に」ってどういうこと?って気になって聴いてみると、本人はなぜ「普通に」を褒め言葉に使っているのか気づいていないんですよ。でも、話しているうちに「授業で感想を求められて正直に言うと怒られることが多いので、建前でなく普通の自分がおもしろいということは凄い価値なんです」ということがわかってきた。

違和感があることでも、「なんでそうなんだろう?」と掘り下げて増幅していって自分でも面白がれるようにすることがヒントになる。他の人にとっても違和感があったものが「実は嫌じゃなくて好きかもしれない」ことに気づけるかもしれない。違和感を楽しめるようになる感覚を伝えられると多くの人が楽しんでくれるものになると思うんです。


伊藤
日テレの人とどうやって企画を考えているの? って話をしていたら、「リサーチの会社を使って流行っているワードを全部書き出してながめる」と言っていました。眺めながらあそことあれをつなげたら……というように発想していくそうです。


米光
自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法―“企画の魔眼”を手に入れよう』にもまったく同じ方法が書いてありますので、ぜひお買上げください(笑)

言葉をわーーーっと書き出すんです。このとき線で言葉を結ばないようにしています。線で結んじゃうと関連性のあるものばかりが可視化されるから、そこ以外の結びつきが分からなくなっちゃう。とにかく書き出すだけ書き出して一見、結べないようなものを結んだほうが絶対面白いと思うんです。

ねじさんの『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』で面白かったのが、アイデアをどうくっつければ面白くなるのかを書いた「接着点」の話です。よく「AとBをくっつけると新しいアイデアが出る」というけど、くっつけてもつまらないアイデアはいっぱいあるじゃないですか。面白くなるくっつけ方を語っているのは面白かったですね。


佐藤
例えば、ある言葉のリストを2つ並べて適当にくっつけたとして面白いものは生まれるかもしれないけど、それは運任せじゃないですか。そうじゃなくて、接着点を使えば面白くなると思うんです。

例えば、アイデアグッズを考えるウェブサイトを作っていたときがあったんですが、その中に「舞踏会」というティーカップのアイデアがありました。どういうものかというとティーカップの持ち手に踊っている人達がいるというものです。電子レンジの中にティーカップを入れると電子レンジの皿の上でティーカップが回るので本当に踊っているように見えるんです。

この企画のポイントの一個は、まず見た目上の面白さです。そこに、電子レンジが回ることをモチーフにする新しさ。さらに、コーヒーカップじゃなくてティーカップの方が舞踏会と相性が良いですよね。そうすることで必然性が生まれる。「なんで思いつかなかったんだろう?」っていう雰囲気を出せるんです。ひらめきだけじゃなくて、そこに必然性を求めるというのが「接着点」の考え方です。

逆に人妻温泉みたいなことを考えられる、センスだけでいける人は僕の中で天才肌だと思っています(笑)


伊藤
会社ではみんなから反対されましたけどね(笑) 僕の場合は真逆の組み合わせ・ありえない組み合わせを作ります。あとはタレントや他の人が嫌がることをやりますね。やらなくてもいいことをやります。

昔のテレビを思い出すとテレビは非日常だったじゃないですか。でもいまは日常を背負ってきてしまっています。ドリフとかアイドルとか昔は非日常だったんですよ。いまはありえないものが無くなっちゃった。衝撃映像とか面白いから見ちゃうんですけど何も残らないですよね。ナレーションとか見せ方とか多少意識はしているみたいですけど衝撃映像は衝撃映像です。

だからこそ、テレビ自体も逆行していくべきかな、と思いまして、もともとテレビの中にあった非日常ってなんだろうなと考えるようになりました。ちょっとありえないような現象を作ったり、コントが短くなるような状況だったら逆にものすごく長くしたりとかそういうことですね。

例えば、日曜日の『世界の果てまでイッテQ』と『真田丸』の裏って視聴率が全然取れないんですよ。特に日テレさんの場合は『笑点』からずっと同じチャンネルの人が5人に1人くらいいるので裏で面白いことやっても気づかれないんです。そこで悩んでいて、いま考えているのが昔テレビ東京でもやっていた肝っ玉母ちゃんみたいな家族モノがもう一回できるんじゃないかと思っています。

もっと具体的に言うと、東京に来た人で「とりあえず実家に帰ろう」「結婚しよう」と言って夢を諦めるひとって今でもいっぱいいるじゃないですか。だから、「ただいま母ちゃん」という帰郷をテーマの企画にしたんです。「そんなの古いよ。誰も見ないよ」と言われるかもしれないけど、逆に僕らの世代には受け入れられるんですよね。日本に来た外国の方が祖国に帰るということもあるでしょうし、「現在の帰郷」ってどういうことなのかってことを映像として切り取ってみたくなった。そうすると他人の人生の覗き見になるので視聴者は日常では見られないものが見られます。テレビ業界的にはベタな企画ですけどね。


米光
でも、昔ほど実家にもどる実感も少なくなってきて、帰郷にはある種の非日常感があると思います。


佐藤
「逆」は時代によって変わってくるということですね。


米光
「ズラす」とか「逆」とか言うとわざとやっているみたいなイメージがあるけど、企画している方としてはそうでもないんですよね。先程の『魔導物語』で言えば「そもそも敵の数を増やせば面白いのか?」というところから出発している。わざと逆張りしているわけじゃなくて、根底にそういう疑問がある。その根底がなくて逆張りをするだけだと単なるひねくれ者になっちゃうんですよね。
 

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