G プレス | 2017年6月7日
Gプレス シェイク!Vol.9 記事(3)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)
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米光一成(ライター)
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佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2ndの連載3回目は、参加者の質問から、それぞれの仕事感の話へ話が膨らんでいった。

客席からのお題「変なことを仕事にする方法」

伊藤
伊藤 この3人に話してほしいお題をみなさんに聞いてみましょうか。

客席A
変なことを仕事にしたいけど、なかなかそれがうまくいきません。変なことをお金にする方法が知りたいです。

佐藤
佐藤 どんなお仕事をされているかによっても変わってきますよね。

客席A
隣のビルの広告制作会社でデザイナーをしています。


佐藤
佐藤 決済のハンコがたくさん必要な場所では変なことがしにくい。だからなるべくハンコが少ない場所に身を置くくふうをしています。独立したのもそういう理由です。

米光
米光 ねじくんが前にいた面白法人カヤックもそうとう自由な会社だと思うんだけど、そこのハンコはしんどかったんだ?

佐藤
佐藤 オッケーを取るのに何層も行くのが苦手で。

米光
米光 ぼくもねじくんチームだ(椅子を佐藤のほうへ引きよせる)。ハンコのない世界に逃げ込んだふたりだよね。

伊藤
伊藤 あらー。


佐藤
佐藤 答えのひとつは、ハンコのない世界に身を置くくふうをする。ないとは言わないまでも、数が減る世界に。

米光
米光 だって、ねじくんも、最初のころは金にならない状態でやってるもんね。

佐藤
佐藤 変なやつはあくまでも個人作品としてやっています。

米光
米光 たくさん作品を出して、それが後々金になっている。

佐藤
佐藤 続けていると、こういうものを作る人だと思われるようになって、仕事が来る。ポジション取りをすることで、変なことをしやすい土壌がだんだんできていきます。

米光
米光 個人で勝手に変なことをやっていると、仕事を依頼する側も変なことをさせたいときに声をかけるから、うまくいくようになる。

佐藤
佐藤 広告の仕事も、大企業よりは決定権がある人と直接やれるような仕事を重視しています。規模があまり大きくないものをやりたいとはいつも思ってるんですね。

米光
米光 伊藤Pは、ハンコを押されることを厭わず、変なことにチャレンジしてクリアしている。池の水を抜くやつは、最終的にはハンコを押してもらったわけでしょ。そこは説得をして?

伊藤
伊藤 振りかえってみると、企画が通りやすい状態に自分を持っていってるとは思いますね。テレビ東京は、バラエティは別にいらないって極端なことを言う人もいるような硬い会社です。ハンコが多いと、本当はこういうことがやりたいですっていうのが言いにくいですよね。環境としては。

佐藤
佐藤 そうですね。

伊藤
伊藤 でも、入社してわりかしすぐに気づいたんです。組織のなかにいるサラリーマンは、みんな嘘つきなんです。で、酒を飲んでやっと本音を話しだす。「おれはさ、ほんとはこう思ったんだよね。そっちのほうが面白くない?」って。でも仕事の場では言わないんですよ。ぼくがこうならないようにするためにはどうしたらいいんだろうと考えました。それには、勇気しかない。

佐藤
佐藤 勇気?

伊藤
伊藤 はい。素直な勇気。私はこう思いますって勇気を持って表明するのがまず一歩。会社の流れに自分が合わせようとしても無理だなっていうのは、気づいたんですよ。ほんとはお笑いやりたいんだけどなって、どこか違うことを考えてる。そのときに「お笑いやりたいです」って言ってみるのがぼくにとっての一歩目だった。企画はもうその勇気しかないっていうのがぼくの持論ですね。だいたい、企画を発表するのって恥ずかしいじゃないですか。これ面白くないですか? って発表して、「はあ?」って思われるのがみんな怖い。でもそれをちゃんと言えるかどうかっていうのが、ぼくはいちばん大事だと思いますね。池の水を抜くのは、みんなに止められ、「わかるよ、おまえのあの感じだろ?」って言ってくる人もいて(笑)。

米光
米光 それどう跳ね返してるんですか?

伊藤
伊藤 「やっぱりこうしないとダメだと思います」って言って。途中でみなさんも諦めましたね。3割ぐらいは向こうの言うことも聞きましたけど。でもやっぱり勇気が必要ですね。こんな話でいいんでしょうかね……(急に照れだす)。

米光
米光 なに照れてんですか(笑)。いやでも、ほんとにそうだと思う。ぼくはネットバンクのアドバイザーをしたことがあります。ゲームみたいに楽しく操作できるようアドバイスをしてくれって言われて、最初の会議で思ったことを素直に話したら場が凍りました。

佐藤
佐藤 なにを言ったんですか?

米光
米光 複雑な決済だと金額が表示されるまで数秒かかる。待たされるんです。だからたとえば最初に1000万ってざっくり表示して、ドラムロールが鳴るなか少しづつ数字が上がっていくようにすれば同じ4秒でも待ったかんじがしませんよって言ったの。ちゃんとネクタイした人たちが、しばらく誰もしゃべらなくて。ひとりの人が申し訳なさそうに「銀行の法律で一瞬でも違う金額を出すのはダメなんですよ」って優しく諭してくれた。すごい恥ずかしかった。

佐藤
佐藤 うんうん。

米光
米光 でも空気を読まずに場を凍らせるのがぼくの役割だろうと思って、くじけずそのあとも何回も言ってたら、みんなが慣れてくれて、ツッコんでくれるようになった。それは勇気というか、野蛮にやらないとダメだなっていう感覚です。

伊藤
伊藤 そうですね。じゃあその4秒をどうしようかって話になるじゃないですか。仮に米光さんの案がダメでも、実はここ引っかかってたんだよなっていうポイントが浮き彫りになる。

佐藤
佐藤 無責任な立場からの意見ってありがたいですよね。

米光
米光 お題の回答をまとめると、ポジションを作れっていう話かな。変なことをする人だと思われれば、変なことができる。

伊藤
伊藤 あともうひとつ。前回も話しましたが、人のものをうまく盗むといいです。暇なときは違うセクションに行って、同期や先輩と話してます。用がなくて会いにいくと、いろんなものを拾える。この間、同期が「ガールズバー通ってるんだよね」って言ってて。ある程度の立場になってくるとなかなか怒ってもらえないじゃないですか。20代の若い子に怒られたくてしょうがないから、ガールズバーで仕事の話をして、「どう思う?」って聞いてるって。それ真剣に言ってるんですよ(笑)。

米光
米光 あーでも、ガールズバーの女の子に意見をもらえるのっていいかもね。

伊藤
伊藤 もうその話からテレビの企画が3つも4つも出てきますね。

佐藤
佐藤 そういう違和感のあるものを掘りにいくんですね。

伊藤
伊藤 うん。女の子に「はじめまして、怒ってもらっていいですか?」っていきなり言う番組があったらちょっと面白いな、とか思いつく。