草彅　吉田さんはどういう経緯でラジオ「Hint」を作ろうと思ったんですか？

吉田　ぼくは新しいガジェットが大好きなんです。なのに自分がメインで仕事をしているラジオの形がぜんぜん進化していない。何十年どころか、ひょっとしたら百年。今っぽいカッコいいラジオがないのはつまんないなーと思ってました。あるとき、フィギュア会社のグッドスマイルカンパニーが変形するヘッドフォン「THP-01」を出したんですね。「めちゃめちゃカッコいいですね」って代表の安藝さんに伝えてやりとりするなかで、ラジオのことを相談して。「THP-01」のデザイナーを紹介してもらったんです。そのデザイナーには最初に「ラジオってなんですか？」と聞かれました。ラジオの定義がはっきりしないと物は作れませんと。

草彅　本質的なラジオ論をまず求められたんですね。

吉田　ラジオとはなにか。そもそも人は人の話を聞くのが好きなのか、嫌いなのかと考え出して。どっちだと思います？

草彅　好きなんじゃないですか。

平岡　嫌い（笑）。

吉田　これはですねー、状況によって変わるんですね。当たり前ですが。人は、上司の話と授業が嫌いなんです。

草彅　それすごいわかる。

平岡　うーわー、いま、客席の部下がうなずいてる（笑）。

吉田　上司の話と授業は、リアクションを取らないといけないでしょ。あとで聞いていたか試されるじゃないですか。そんなもんつまんない。じゃあ、どんな話が好きなのか？　ファミレスの隣の席の話です。めちゃ聞くでしょ？

草彅　ええ。

吉田　隣で揉めてると面白い。つまり、ラジオは基本的には聞き流していい話なんです。それがいちばん面白いのだと気付きました。これをまとめると「ラジオとは人の気配がすること」。それをデザイナーさんに話してデザインしてもらって。360度どこからでも聞ける無指向性スピーカーになりました。あと、ラジオに絶対に欠かせないものとして、つけた瞬間にすぐ音がするっていうのをやりたかった。他には、Bluetoothのビーコン機能を積ませました。

草彅　ビーコン機能？

吉田　音声に反応してスマホにURLが通知されます。ラジオを聴いてたらいつの間にか情報が来てる、という。ラジオが任意のURLを放送できるようなデバイスにしちゃったんです。

草彅　これってこれまでなかったんですよね？

吉田　たぶんないです。いちおう特許申請してみました。特許商売にするつもりはないのですが、シンプルなシステムなので企画が乱立するとユーザーのためにならないから。

草彅　聞いていて、アナウンサーという軸足がひとつあって、そこを中心に幅を広げているかんじがします。

吉田　アナウンサーって、どこにでもいられるんですよ。単なる会社員なのに、選挙事務所にいても、災害現場にいても、歌番組の司会にいても不思議に思われない。アナウンサーという肩書き一発で、ぜんぶがオッケーになる。ラッキーだなあと思います。ひとつしかやりたくない人はつらいと思うんですけど、ぼくはなんでもやってみたいので。

草彅　けど、ラジオや漫画が好きで、興味を活かして生かしているわけですもんね。

吉田　そうですね。

草彅　アナウンサーは仕事だとしても、好きなことを落とし込みたいって発作的に思うんじゃないですか。そんなかんじがしますね。

吉田　そうですね。発作的にやりたいことをやっていたらもう手一杯という。

草彅　ぼくもそうです。好きなことをやっている。

吉田　好きなことを企画にするといいという例に「BABYMETAL」があります。「BABYMETAL」を作ったのはアミューズの小林さんという人で。

草彅　ヘヴィメタル好きの人ですよね。

吉田　そう、KOBAMETALという名前で「BABYMETAL」好きの間では知られています。音楽が好きでアミューズに入ったら、アイドルユニット「さくら学院」の担当をすることになって。それで、さくら学院重音部というのを始めたんです。

草彅　「BABYMETAL」はもともと「さくら学院」のスピンオフですもんね。

平岡　アイドルとヘヴィメタという異なるものの化学反応があったんですね。

吉田　そうなんです。小林さんは、ガチで好きだからヘヴィメタの持つ批評性がよくわかっていた。メジャーデビュー1曲目のタイトルが「イジメ、ダメ、ゼッタイ」ですよ。さらに「SHOW-YA」と対バン。最高！

草彅　ぼくもアイドル好きなので、「BABYMETAL」のすごさはわかります。

吉田　アイドルって企画の塊ですからね。

草彅　そうそう。アイドル戦国時代のなかで、いかに他とはずらした企画を立てるか、みんな考えている。

吉田　だからヤヴァイ企画の話でいうと、本当に好きなもの以外でヤヴァイことをやろうとしてもうまくいかないと思うんです。本当に好きなもの以外では目が利かないし、プロを相手に戦えない。自分の好きなものがふたつ以上ある人は、それを組み合わせてみたらいいんじゃないでしょうか。草彅さんは文学がお好きなわけですよね。

草彅　はい。

吉田　だから文学カフェをプロデュースできるわけですよね。

草彅　そうです。ぼく、本の倉庫代が月10万かかってて困ってたんです。家の下駄箱まで本で埋まってました。

吉田　うちの下駄箱もいまそんなかんじです。漫画ですけどね。

草彅　どこかに本を置きたいなあってなった瞬間にブックカフェ作ろうって思いました。