• Gプレスvol.159更新 フジテレビ 野村和生さん × テレビ東京蜷川新治郎さん 対談「いま本当にテレビに求められるべきことは何か [前編] 」

Gプレスvol.159更新 フジテレビ 野村和生さん × テレビ東京蜷川新治郎さん 対談「いま本当にテレビに求められるべきことは何か [前編] 」

G-PRESSでは過去様々な記事を掲載して参りましたが、今回より新たにシェイク!のようなトークセッションではない、対談シリーズの記事も掲載していきます。
初回は、フジテレビの野村和生さんとテレビ東京の蜷川新治郎さんにお二人が手がけられているVODにまつわる話を中心にお話を伺いました。前中後編の全3回シリーズです。

Gプレスvol.159

最初にお聴きしたいことは、5Gになったらガラリと変わるみたいなことを良く耳にすることがあるんですが、言われているほど一気に変わるんでしょうか?

野村

それはキャリアの発想で通信速度が速くなる以外は特に何も変わりません。3Gから4Gのときも、まず論理的な値と実際の目指す値の回線スピードの設定と目標を決めました。そのとき決めたことはこれぐらいの値があったらHDを安定的に伝送できるみたいな基準なんです。その意味では5Gが始まれば4Kでも伝送出来るし、VRも伝送出来ますみたいな感じでしかありません。5Gになったら血糖値が分かるわけでもないし(笑)

蜷川

5Gになったから技術的に何か変わるかと言われると、5Gは今の技術の延長なので便利にはなりますね。ダウンロードも一瞬で終わる世界観は出てくるから、利便性はあると思いますけど、だからと言ってすごいビジネスがと言われると。。
例えばよく言われている放送と区別が無くなるというのは確かにそうだと思うんです。今はLIVE配信で日本全国津々浦々まで放送以外で流そうと思ったら難しいと思いますが、5Gでバックボーンまでボーンと太くなったらもちろん便利なんです。だからと言って他の業種が参入しやすくなってテレビみたいなサービスが出来るかと言えばそういう訳ではないと思います。テレビは集合体として初めて成り立つから、そこはやっぱり個人的には違う気がします。

野村

4Gになって良くなったのは、スマホで視聴する画質がワンセグ以上になったことです。その画質での動画配信が普通に見られるようになったことが挙げられます。しかし、スマホが4Kになる必要はないし、多くてもスマートフォンはHD画質で充分だし、VRも必要なのか?みたいなことは思います。
それよりも、もちろんdocomoや他のキャリアがラストワンマイルをやりますが、今度5Gのサービスが始まるとインターネットのバックボーンが逆に追いつかなくなると思います。今でもWindows up date のときにはダウンロードする際、インターネット回線が逼迫してPCが大渋滞しているじゃないですか? それでダウンロード出来ない声が多く出る。そうすると後どれだけ太い(広帯域な)海底ケーブルを何本も引かなくてはいけないのか考える必要がありますし、そういった別の問題点が出てくるような気がしますけれどね。

野村 和生:
フジテレビ 総合事業局 コンテンツ事業センター コンテンツデザイン部 部長職 1974年北海道札幌市生まれ。1997年NTTドコモに入社。ワンセグなどの新規事業企画・開発を担当した。2005年フジテレビ入社。モバイルサイトプロデューサー、CS放送スポーツ編成、ゲームプロデューサーを経て、2012年からFODの事業執行責任者として現在に至る。オリジナル番組「めちゃ×2ユルんでるッ!」「めちゃ×2タメしてるッ!」「ラブホの上野さん」「360°まる見え!VRアイドル水泳大会」「スナック幸子」「劇団ひとりの編集長お願いします。」「世界をマンガでハッピーに!」「有ちゃっと」「スクールジャック!!」のプロデューサーも務めている。

お二人はいわゆるVOD(ビデオオンデマンド)事業をされている訳ですが、それぞれお互いのサービスについてはどう捉えていらっしゃいますか?

野村

FODをやってみて分かったことはVOD事業はそう簡単に黒字化しません。何年も運営した後に黒字化した訳で、テレビ東京がVODサービスの総合的な本店は持たない状況は良く分かります。
テレビ東京ビジネスオンデマンドの会員が6万人を越えたというニュースを見て、ピンポイントに尖った分野でやれば収益化も可能だということを感じました。6万人も有料会員がいればきっと安定したサービスになると思います。動画コンテンツの主役はテレビ番組だっていう空気を作っていきたいし、その上で4月1 日から始まったParaviの存在は大きな存在だからテレビ東京には期待しています。

蜷川

テレビ東京は今までの戦術でいうとフジテレビとは全く逆のことをやっていて、VODは特に深夜帯のコンテンツが多かったので、テレビ東京は外のパートナーと組んで流通させてもらいレベニューをいただくやり方を取っています。FODについては最近オリジナルコンテンツも投入されているので、まだそう簡単に黒字で成功するとは言えないかも知れないですが、ナレッジ等は相当貯まってらっしゃるだろうなという気はします。
テレビ東京もテレビ東京ビジネスオンデマンドなどは自前でやっていて、それもテレビ東京っぽさで、とがったジャンルで少ないユーザーでも、専門的なサービスとして、ユーザーから少し単価高くお金をいただいて、他の総合的なVODサービスには、それぞれ頑張ってもらおうというのが今までの戦術です。

蜷川新治郎:
株式会社テレビ東京ホールディングスコンテンツ戦略局企画推進部長 兼テレビ東京コミュニケーションズ取締役 1971年8月27日 東京都中野区生まれ。1994年日本経済新聞社入社以来、インターネットサービスの開発を担当。 2008年、長年にわたり希望したテレビ東京出向がなかなか実現せず、日本経済新聞社を“勢いで”退職。資本関係という“大人の事情”を無視して、テレビ東京に入社を懇願、3か月の無職を経て、2008年7月入社。 テレビ東京のインターネットサービス全般の企画開発、システム構築を担当。 2013年6月よりテレビ東京コミュニケーションズ取締役 2017年11月より現職兼任
野村

もともとサービスイン後にFODが今の形になったのは、もともとコンテンツの出し先だった配信プラットフォームとの配分料率交渉が大きかったんです。これは毎年値下げ交渉ばかりでした。その交渉が成立しないと配信ができず、大きく売上が下がってしまうという恐怖がありました。よくContents is Kingって言いますが、全然Contents is Kingになっていないような状況を打破したいと思い、少しでもやせ我慢出来るように、交渉が決裂したときは「じゃあ自社でやります」と言えるような配信基盤を自分たちで作ろうと動いたことが大きかったですね。

インタビュアー

FODがVOD事業では他のテレビ局よりもかなり先行していましたよね?

野村

本店に力を入れ始めたのは2012年くらいからですね。

蜷川

テレビ東京も各社がVODサービスをやり始めた頃には当然同じことをやりたい思いはあったものの二の足を踏んでいました。どちらかというと言葉は悪いですが、テレビ東京は経済コンテンツのみ切り出してやりましたが、VODサービス参入に機を逸しているときに、海外のプラットフォーマーや国内でもAbema TVはじめ立ち上がり始めたおかげで逆にあまりリスクを取らず、収益が得られるという環境が出来上がったという認識です。これがテレビ東京も4~5年前に始めていたとしたら、どういう戦術を取っていたか分からない。その辺はタイミングの問題も今のサービスの形になった大きな要因になっています。

VOD事業を行っていくなかで、様々なサービスが乱立していますが、特にここがライバルだ!脅威だ!なんて考える事業者はいらっしゃいますか?

蜷川

VOD業界に関わる人間は皆そうだと思いますが、やっぱりコンテンツを安く買い叩かれることが脅威です。要するに僕らが今のクオリティのものを作れなくなってしまう状況が一番怖い。しかし、コンテンツがどんどんどんどん今までの価値基準ではないところで判断される現状が存在していて、今のビジネスモデルとしてのテレビはユーザーがテレビの前に何時間居てもらえるか・何分居てもらえるかというモデルです。この先、その時間を維持するとか拡げていくことは相当難しい。だから今のままのビジネスモデルを拡張するのも難しいとすれば、テレビ業界が(他のものに)奪われている可処分時間のところにどうやって出ていけるかを考えることが大事になる。それが外資も含めたプラットフォーマーにテレビ東京が自分たちのコンテンツを流通させてもらうことで得られる最大のリーチを取ることだった。テレビ東京的にはあまり各社ライバルという概念はない。どちらかと言えば、リスクをどうやって早めに摘めるかということでバランスが大事だと思います。

野村

VOD業界内では話題になっていますけど、複数の大手配信プラットフォームがコンテンツの調達単価を下げはじめています。各社とも言われて「えーっ!?」となっているんですが、これからが本当に勝負で、一番リスキーなのは一つのプラットフォーマーに全ノリしたところ。独占条件で全部コンテンツを出してしまったところは、価格を削られ始めると会社に対して約束している利益が産めなくなる恐れがあります。フジテレビは自社メインでやってきて、正直本当に良かったと思う。

蜷川

プラットフォーマーの調達単価は本当に株価みたいなもので、テレビ局側が頑張ったから上がるかと言えばそういうものでもない。外的な要因が大きいので、複数のパラメーターでいろんなことを考えていかなくてはいけない。

野村

他にも現状国内の大手がサービス終了したり、苦戦したりしていますすね。そうなると配分減資がさらに減るってことにつながります。

蜷川

たしかにそうなりますね。

プラットフォーマーが群雄割拠する中で、民放各局が参加しているポータルがTVerですが、サービスインしてから2年以上経過しました。サービスインからここまでお二人はそれぞれどんな印象を参加している立場からお持ちでしょうか?

野村

TVerについてはすごく前向きに捉えていて、実際多くの人がTVer経由でFODを見ています。やっぱりザッピングするユーザーが一定数いて、そういう人はTVer経由で来ることが多い。その意味でTVerはやって良かったという実感がある。最初は(コストを)回収出来るのか半信半疑でしたが、現在はそこそこ事業としてやっていけるくらいの売上にもなってきました。FODは無料のアプリ+有料アプリの立て付けなので、無料も有料も動画配信が本業といえるレベルになりつつあります。無料配信は圧倒的にUU(ユニークユーザー数)が多いので、結果的にそれが有料会員獲得のきっかけにもなるという実感もあります。

蜷川

僕も野村さんと似ていますが、FODはしっかりブランディングが出来ています。なぜフジテレビだけTVerはあんな仕組みなんだと言う人も確かにいます。無料で見れる領域と、しっかりお金を払ってもらえる受け皿を作るなかでTVerがその入口になっていることは、FODは良く出来た流れを作っていると思います。テレビ東京も4月1日からParaviがはじまっています。ビジネスオンデマンド、あにてれもある。他にもやるかも知れないですが、そこはすごくシームレスにユーザーの導線を引きたいという思いがあって、現状のTVerはキャッチアップだけなので、やはりユーザーから見るとこちらのビジネスモデルを押し付けているだけで不便だと思います。お金を払ってでも見たいコンテンツがあった場合、それが見られるサービスがどこか?、分からない状況でTVerに行って、見たいコンテンツが何も無いようなことは問題だと思います。TVerは基本的には、FODとの関係のように、ポータル的な意味で総合的なコンテンツの入り口になっていくのがいいと、個人的には思います。今現在は技術的に何度も様々なアプリを入れないといけないケースもあるので、その点では少しイケてませんが、そこを解決して、TVerがハブになるのかなと。だから結局のところTVerだけ良くしていけばいいという話でもないと思います。

野村

これは個人的な見解になりますが、無料配信は結局見てもらってなんぼだと思っています。そのため別にTVerだけではなく広く個人ブログに貼り付けてもらってもいいぐらいで、そのブログ等から見られた広告の広告費がしっかり収入として入る。更に出演者、権利者にも収入が入る形が一番いい。

蜷川

全く一緒の意見です。TVerという大きな入り口はありつつ、いろいろなところに、入り口を作らなくてはならない。もちろん今あるブランドを毀損するようなところはダメですが、どのサービスでも、そこできちんとビジネスが出来るのであれば、どこでもコンテンツは出していいと思っています。僕はずっと言っていますがAbema TVにテレビ東京チャンネルが出来るのは当たり前なことだと考えています。マネタイズのチャンスを作れるのであれば、否定的じゃなくむしろ前のめりな考えですね。

先程の話からの流れで、より具体的にキャッチアップ動画の話をお聞かせください。

野村

FODはロングテールモデルで全番組をキャッチアップ出来るようにしたいと思っています。ただ放送直後の配信は制作側にも負荷をかけることになるので、一つ一つ解決するしかないと思っています。あとあるのが過去番組の権利処理の話ですね。例えば配信オリジナルだとレコ協の包括契約から外れるので、たった1曲の楽曲でも使用NGだったり、使用OKだとしても許諾を得るのに相当のコストが掛かることがあります。他にはLIVEは良いけどアーカイブはダメなケース等。そこで何をするかと言うと、一番良いのは楽曲を完コピして一から作ることです。もちろん費用も時間もかかりますし、場合によってはそれも作れなかったりするので、カラオケの楽曲をそっくりさんみたいな人に歌ってもらって代用する場合もあります。オルゴールみたいな楽曲を充てても成立する場合はそれでも良いかも知れません。

蜷川

本当に今の流れから言うと、どんどんどんどんコンテンツが作れなくなってしまいます。野村さんがおっしゃったようにクリエイティブで合理性を求められない表現をしようとするとあまりにも非効率的なことが起きるので、そこを解決しないと作る側だけじゃなく権利ホルダー側にもお金が入らなくなってしまいます。

野村

適当に言う訳じゃないですけど、楽曲を完コピして制作した場合はレコード原盤の権利者側には一銭も入らないので、そこはもう理解してもらうしかないです。

蜷川

テレビで一回放送したものは基本的には、様々な場所に流通してしまうじゃないですか。簡単にコピーできてしまうし、抑えられない。そう考えると今まで違法動画によって闇に消えた収益が権利者側にしっかりと配分出来る文脈では、権利者側を守るために放送コンテンツはありとあらゆるところに、アクセシビリティ良く、ユーザビリティ良く、UX良く、コンテンツが流通されないと。

インタビュアー

TBS動画がはじまったときの話で興味深かったのは、どこからのアクセスが多かったかという結果がパンドラTVからだったという話を聞いたことがあります。

蜷川

テレビ東京の入社試験で「ゴッドタン」なんかを、Youtube(違法アップロード)で見てますなんて平気な顔で言う学生もいっぱいいますからね。彼らにとっては、それが当たり前で、罪悪感がない。なのでテレビ東京は、オフィシャルに、Youtubeにコンテンツを出しています。ただ、感情的な問題として彼ら(Youtube)はもうちょっと違法動画を取り締まれよって問題はあります。もう今や違法動画はYoutubeだけではなくなっていて、TwitterやFacebook、それ以外にも、気軽に貼られてしまいますから。だからもはや海賊対策は、正規に、きちんと流通させるしかないと思うんです。

野村

以前世界フィギュアスケートを地上波で放送した際、見逃し配信もしますと番組内でアナウンスしていました。ただ権利関係でオリンピックの映像等が使えないものもあり再編集してCM入れのチェックもすると配信するまで放送終了から6時間掛かりました。それを配信したときには、もうYoutubeに羽生選手の演技シーンがアップされていて既に約30万回再生されていました。その現実に自分たちのこの努力は何だったんだみたいなことが思い出されます。

蜷川

本当にその辺の対策は課題で、やはりオリンピックは仕方ないですが、ー普通の番組なのに再編集をしないといけないケースでは、我々が違法動画より後に出さざるを得ないジレンマがあります。ユーザーにも親切じゃないですし、ルールを守っている側が、違法よりもクオリティの悪いモノ(放送と同一でないという意味で)を出している現状がどうしてもある。

野村

FODは有料配信をしているため、お金を払って見に来てくれている人が損をするみたいな状況だけは絶対にあってはならないと思っているので、お金をかけて違法動画対策をやっています。

[野村和生 x 蜷川新治郎 対談中編 へ続く]

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