G プレス | 2018年4月27日
SP対談  vol1 野村和生x蜷川新治郎 3

いま本当にテレビに
求められるべきことは何か
[後編]

野村和生さん(フジテレビ)✕蜷川新治郎さん(テレビ東京)の対談後編は、最近よく世間でも話題になるテレビの影響力、同時再送信の話を中心に、広告やコンテンツの今在るべき姿についても話が及びました。

Gプレスvol.159

— Abema TVの文脈で視聴率だったり、リーチの話題がテレビのそれと対比されることが多くなったと思います。そんなテレビの影響力についてはどうお考えですか?


蜷川
Abema TVを別に全然否定的に言うわけではなくて、新しい取組も多くて、本当にスゴいと思いますが、まだテレビのリーチの域には達していない。視聴率に換算する話やアクセス数の話もありますけど、視聴率は見た人の数ではなく見ていた人の時間なんで、その辺の議論が噛み合っていないのはあります。とはいえ、Abema TVが多くの方に受け入れられていることは全然否定しないし、彼らみたいにああやって自分たちのサービスだけじゃなくて、ソーシャルをはじめ、周辺のサービスもバンバン使って、そのコンテンツをブームアップさせて、成長させていくやり方は圧倒的ですね。むしろそのコンテンツ価値を最大化しようとする姿勢は、テレビ局もマネていかないといけないと思うし、だからテレビ局外のサービス、媒体にどうやってインパクトを与えていくのか?を考えないといけないと思います。

— 最近少しずつ話題にのぼることも多い同時再送信についての見解はいかがですか?


野村

同時再送信が微妙に進まないのはテレビ局には(社内に)全局見ることが出来るテレビがあるからですよ。(テレビがあるから)全局職場で見れちゃうんですよ。


蜷川
たしかにね。


野村

だから見られないことに対するフラストレーションがないんですよね。自分はdocomoが前職だから分かりますけど基本的にテレビ局以外は応接室にしかテレビがないんですよ。


蜷川
たしかに、そうですね。


野村

そう、だから(テレビ局で働く人以外は基本的には)昼間は見る手段がないんですよね。


蜷川
でも、同時再送信したからそれがすごいビジネスになるかと言われたら、正直そうは思わないです。でも、みすみすチャンスを逃すものではないなと思うんです。だからさっき言ったようにテレビはコンテンツのプロモーションの場だと割り切ったほうが良くて、たまたまそこに人が集まっているから広告ビジネスが成り立ったわけで、やっぱりプロモーションとマネタイズが究極的に一体化していたものの一つだと思うんですね。だからこれからコンテンツのプロモーションをするためには、やっぱりありとあらゆるデバイスでお手軽に見れる環境を作らないといけないんです。


野村

Amazonがもうチューナーの付いていないテレビを売り出しちゃったら、なりふり構わずやるしかない気がするんですけどね。それはビジネスにするかしないかの話ですもんね。


蜷川
同時再送信して、広告収入だけでリクープさせる考え方ではないような気がするんですけどね。同時再送信に金が掛かると言うけど、そりゃお金は掛かりますけど、それをやらなかったら、どうやって拡げるんだと考えたら、それしかないと思うんです。だから、コンテンツのファンを増やして、違う形で収益化する。。。


野村

たぶん(同時再送信は)ワンセグみたいなものじゃないですか。自分は(前職時代に)ワンセグに関わっていたんで自分のことを否定するみたいですけど、やる前はもうワンセグワンセグとすごく規格争いもしたけど、始まってみたらワールドカップとか地震があったときに見るくらいのもので、そんな認識の使われ方になった。(同時再送信も)始めちゃえば意外にすぐ沈静化して落ち着く気がしますけどね。


蜷川
すぐの試算も視聴率の半分が、ネットで見たら年間何兆円掛かりますみたいなことになるけど、そうなったらそうなったでまた違うビジネスになっちゃうから。


野村

配信をやりきることを単純に義務にしなければいいんですよね。いっぱい来たら見られなくなります以上みたいな。そんなもんじゃないですか。


蜷川
まさにそうだと思います。


野村

テレビは品質を保証するけど、配信は品質を保証しませんみたいな。


蜷川
本当にそういうことだと思いますよ。ベストエフォートで全然いいし。だから、画質が悪くてCMに傷が付くなんてとんでもないみたいな、今のビジネスモデルの延長で配信を考えるからすぐそういうところが入り口になってしまうけど、(同時再送信は)違うビジネスですよと。今まで、番組はそこで消費されたら終わりだったじゃないですか。人を集めて終わりだったけど、これからはより、その次どうやって収益化できるか?も番組の価値として大きくなっていくと。いままでも、グッズが売れるとか後でアーカイブが流行るとかいろんなそういう第二第三のビジネスが出来る(番組)コンテンツがどんどん増えてきました。同時再送信なんてみんな前向きにやりましょうって話以外何者でもないと思うんですけどね。アンテナ線が無いテレビでコンテンツを見る時代がそのうち来る訳で、そこに合わせて準備をしていないといけない。そんな時代が来ちゃったら真っ先に僕らが締め出されるわけじゃないですか。


野村

そうですよ、Abema TVに駆逐されちゃいますよ。(笑)

本当は国が同時再送信を放送の範囲内と判断してくれれば一番いいんですけど。


蜷川
そうなんですよ。ただ、もう少しのあいだは、ガタガタガタッとテレビ広告費の急降下はしないと思うんですよね。全く同じものがなかなか無いから。だけど残念ながら広告費の文脈で言うと増えてはいかない。それはもう仕方がない。視聴率も、時間の奪い合いのなかで、絶対下がっていくから。


野村

まだFODの規模は全然小さいですが、フジテレビの一部の収益を担うぐらいのレベルにはたぶん出来るんじゃないかと思うんですよね。広告費で言えば、世界規模の広告主がデジタル予算を減らしましたよね? 自分も何で1ミリも効果がないような粗悪な一部ネットメディアにこんなにお金が払われているんだろうかずっと疑問に思っていたんですよ。だからようやくテレビが見直されて来たことをちょっと実感しています。日本の広告主も、ネガティブな感情しか生まないクリックを強引に誘導するような広告等に意味があるのか早く気づいて欲しい。その意味ではTVerやキャッチアップ動画の広告はとてもいい露出の仕方をしていると思っています。以前、電通総研の方が広告の基本は消極的多露出だと言っていたんです。積極的に広告が関与したらウザい。でも露出回数は多いほうがいいみたいなことが基本だと言っていて、今の主なネット広告はまさしく積極的多露出だからウザくてしょうがないんですよね。


蜷川
まだ広告の手法がテレビだからやっぱり時間でモノを売ろうとしちゃうんですけど、いま野村さんがおっしゃったように、ユーザーの邪魔にならないところにどんな広告を出すのかをもう少し考えなくてはいけない。だからどうしても下手したら、放送ではスポットで2分CM積んだから、ネットも(同じように)積んどけみたいになりがちになる。(テレビは)あくまで時間を売ってるから、(ネットは)チャンスを売る商売なんで、野村さんの言ったことはこれから絶対実現しなきゃいけないと思う。


野村

(ネットと比較しなくても)CMチャンスの入れ方はテレビは素晴らしいですよ。YoutubeでいきなりバサッとCMが来たらイラッとしますもん。なんでここで無理やり広告出している?のみたいな。だからちゃんと(CMの)入れどころを計算して視聴者にストレスを与えない出し方は、ネット動画を作る人は広告を入れようと思うならちゃんと考えたほうがいいと思いますね。ネット広告でもちゃんと企業がブランディング出来ればいいと思いますけどね。


蜷川
よく最近思うんですけど、2~3年前かなぁ?アドテックとかマーケティングのイベントで、もうテレビは終わってますみたいなことをネット側の方々や、ネット代理店、クライアントの一部の方は結構そういったことをおっしゃっていました。しかし、やはりフラウドとかwelqの問題が起こると、少し変わってきましたよね。今は評価が、ある意味、正当な位置で止まっている気がして、チャンスになるような追い風が吹いているわけではないけど、今は正当な評価をもらっているタイミングだと思うから、それをちゃんと裏付けるマーケティングデータが必要だと思うんです。Youtuberのコンテンツは他メディアでは、なかなか展開されないコンテンツじゃないですか。一部熱狂的なファン層がいるけど、なかなかマスにはならないし、ヒカキンさんでも、マスとは違うわけで。


野村

ヒカキンさんのファン層は基本的に子どもが多いですよね。ただヒカキンTVに入っている広告を興味もないのに子どもが覚えて呟いちゃう。不思議なんですよね。


蜷川
だから、その辺はあるけど、テレビ業界は今すごく叩かれることは叩かれるんですけど、いいタイミングにいると思うんで、強化するのに一番いいチャンスだと思いますけどね。


野村

面白い時代にいるなって感じはありますね。


蜷川
あと20年近く居なきゃいけないですからね。

— 最後にこれだけは分かっていてもらいたいことはありますか? 例えば話も出てきましたが意外と動画も再編集する場合が多い話もありましたが。

野村

それは時間の言い訳にしかならないですからね。プロデューサーが非協力なケースもあるので(笑) 。実際に自分もやったことありますけど、プロデューサーたちは番組を作るのに精一杯だから正直面倒くさいんですよ。ギリギリの予算とスケジュールでやっているのにあれもこれもやってくださいと来ると実際は大変なんですよね。

そういう意味で言っておきたいことは、日本の番組の制作費は全て地上波の編成予算オンリーで作っているんですよね。海外例えばイギリスは、基本的に販売することを前提に作っています。だから日本よりも、もう少しコンテンツへの投資と回収の考え方があるような気がします。テレビは基本的には放送したタイミングで全て費用化されます。でもドラマは私見ですが資産計上しても良いのではと思っています。もちろんそれはそれで新たな問題が出てくるんですけどね。でも放送して終わりって概念をほとんどのテレビ業界の人が持っていて、そうではなくてテレビ番組は資産という考え方をもっと持つべきだと思いますね。そう考えたら大きな投資も出来るんじゃないかって。もちろんニュースみたいに放送したら終わるものもあって、そこは上手く考え方を分けられたらいいなって考え方ですね。


蜷川
今の野村さんの話に補足すると、コンテンツの価値を測る軸はどうしても視聴率だけに行きがちだと思うんですよね。だから先日幕を閉じた「めちゃ×2イケてるッ!」だってイベントをやったりグッズが売れたりいろんなところがあって、それが統合的な指標として表しきれていないのは、これはテレビ局のビジネスがこれからどんどん複雑になっていく中ですごく難しいところだと思うんですよね。視聴率に反映されない、グッズや配信ですごいエンゲージメントが強いお客さんを掴んでいるコンテンツみたいな評価軸があってもいいと思います。

僕はよく周りから転職しないのって言われるんです。今の会社にいる一番の理由は、テレビ東京が小さいけど、マスメディアだからなんですよね。その意味するところはマスメディアに居たい、マスの影響力を保ちたいってことではなく、ユーザーにマスコンテンツを届けたいと思っているんです。だからテレビ東京はコアなコンテンツと言われるけど、それでもマス、コアな専門マスみたいなところがあるじゃないですか。それが崩れるのは世の中的にもあまりよろしいことではないのかなって。他方、マスメディアの功罪みたいなものは別の次元であると理解しています。偏向報道とか、いろいろ言われますが、同じものをより多くの人が、ほぼ同時に見て体験をするなかで、どう感じるか、好きと思うか嫌いと思うかで個性だと思うんで、最初からみんなが見ているものが違うとか、好きなものがどんどんと枝分かれして全く離れてしまうことは、そのうち本当にコミュニケーションそのものがなくなってしまう気がしています。新たな気付きなんかもどんどん無くなっていくし、全てがオンデマンドになっていくのは、豊かな世の中ではないんじゃないかと個人的には思うんです。それが僕が今テレビ東京にいる唯一にして最大の理由だったりするんで。(笑)。テレビ局にいる以上、影響力を持ちたいとかではなく、より多くの人に体感してもらいたい。今まで100%リーチだったものが崩れたわけで、だから(テレビ以外の)外のデバイスに出来るだけ行って、やっぱりリーチは取らないといけないと思うし、それが出来ないとコンテンツビジネスは成り立たなくなりますよね?


野村

リーチという意味では冬季オリンピックのカーリングはすごかったですよね。

スポーツはLIVEのコンテンツだし録画して見てもあまり意味のないものなんで、今後はLIVEも重要視されていくんじゃないですかね。DAZNの存在もありますが。


蜷川
LIVEは放送の一つの役割になるでしょうね。


インタビュアー
今回は本当にありがとうございました。


野村

ありがとうございました。


蜷川
ありがとうございました。


[完]
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