G プレス | 2018年6月29日
SP対談  vol2片岡x土橋 2

昨今のアニメトレンド事情とこれからの話
[中編]

片岡秀夫さんと土橋圭介さんによる対談の中編。ここではネット配信と製作委員会の話からはじまり、一時話題になったあの話についてまでを語っていただきました。※この対談は4/19に収録しました。

Gプレスvol.163

ーー ネット配信と製作委員会の話

片岡
ネット配信系がどんどん伸びているなかで、そういったところも想定されて契約されたりとかするんですか?


土橋
アニメは数あるジャンルの映像コンテンツなかでもすごく流通するコンテンツですよね?国内に限らず海外も含めて良く売れるものだと思うんですね。我々NHK側の企画じゃない場合、DVD全盛の時代はパッケージメーカーさんが主導で企画が進むことが、とりわけ大人向けアニメは多かったと思います。制作費の最大出資者でしたし。ところが、昨今は配信がメインだといただく企画を見ていて実感しています。提案される段階でもうNetflixやamazonが決まっている場合もあります。新作を扱わせていただく場合には、やはり放送ファースト、つまりNHKが初出になることにこだわりたいです。ただ結局、権利の売り買いなんで交渉不成立なんてケースもあります。こちら側の理屈だけではダメですからね。現状は国内でのNHKのメディア力を評価していただいて、放送ファーストですが、将来的なメディア状況がどうなるかわかりませんから。また、民放さんが放送したアニメ作品を購入・放送してきた経験からすると、良質な作品であれば、ネットがファーストランで放送がセカンドラン、サードランであってもありなんじゃないかと思っています。アニメじゃないですけど又吉直樹さん原作ドラマ「火花」は、Netflixがファースト・ウィンドウで配信した後、総合テレビで放送したケースもあります。


片岡
以前から聞きたかったのですが、NHKで放送するとCM枠がないので、製作に参加される企業にとって、パッケージの宣伝が入れられないという観点があります。



土橋
そうですね。



片岡
そうすると製作委員会に出資した人たちから見れば、どこで (DVD/BD パッケージの) 宣伝するのか、ということがあって、NHK 以外の BS でやっている場合はそこで入れるというのはありますが、意外に、見ている人たちにパッケージの宣伝を伝える場がない。ここを製作委員会はどう考えているんでしょう?



土橋
どうなんでしょう?僕は当事者ではないので確かなことは言えません(笑)。直後に該当作品のパッケージや関連商品あるいは原作本のCMが入るのは大きなメリットだと思いますが、その分制作費以外にもお金がかかりますよね?作品の制作費に加えてさらにお金がかかるのはデメリットとなる可能性もあるわけで、売れて回収できればOKですが、そうでないケースもありますから。かつてのDVDがメインの時代とは違って、いまは海外の配信事業者だけで制作費の大半は回収なんて話もよく聞きます。そういう場合、国内で商品を売るため宣伝媒体としてのTV放送をとらえるのではなく、放送を通じて国内でより多くの人に作品を見てもらいたいということで、NHKにご提案をいただくことも増えてきたように思います。47都道府県にあまねく電波が届く唯一の放送局というNHKならでのはメリットです。

「進撃の巨人」をシーズン3からNHKでやることを発表しましたが、これは、NHKで放送すると作品の認知が広がることをアニメを作っている製作委員会から評価していただいてのご提案でした。2年前にBSプレミアムで深夜にシーズン1をひっそり放送したんすが、いろんなメディアで作品が出ていった後でしたが、NHKで初めて進撃を見たという反応が結構多かった。また、全国で同じ時間に放送するので、各地の視聴者が同時に視聴することで、SNSの盛り上がりも深夜のわりに良かったんです。その時、NHKという媒体に可能性を感じたようです。正直、委員会のメンバーにMBS(毎日放送)さんがいるので、よく委員会内でOKが出たなという感じです(苦笑)。



片岡
どんどん謎が分かってきた感じです急にチャンネル移ったから取られた局からするともう勘弁してよ、みたいな。「僕のヒーローアカデミア」みたいな例もありましたし。あれはいろいろ事情があったようですが。



土橋
他局のことは知りません(笑)!



片岡
突然NHKで放送となって何で?と、みんなアニメファンは思ったでしょうね。



土橋
確かに発表した直後、賛否両論ありましたね。



片岡
奪ったのか?って思っている人も多いでしょうし。製作委員会や原作は全国で放送が拡がると次にやるときの動員に効いてきたり、グッズが売れたり、それこそ円盤も売れたりあるいは配信で見ようというのも増加しますよね。


土橋
放送で広がったらDVDが売れるという単純なものでもないようですが。



片岡
「進撃の巨人」は売れそうですけどね。



土橋
大ヒット作ですからね。でも、NHKは製作委員会のメンバーではないので、そのあたりの事情はよくわかりません。それから、必ずそうなるわけではなく、また作品によっても違いますが、放送は原作本のセールスには比較的良い影響を及ぼす傾向があると聞いています。



片岡
原作が一番売れるらしいですね。円盤はなかなか売れないが、原作側は喜ぶことが多いと聞きました。



土橋
配信のユーザーが増えてきているとは言っても、放送を比べると、まだ規模は小さい。だから、配信でアニメをいくらやっても原作は売れないと嘆く版元さんもいますね。見ることができるユーザー数で考えるとNHKの媒体力はまだまだ侮れないと思いますよ。



片岡
全国区だから本が売れるエリアも広いんでしょうね。



土橋
作品にもよりますが、民放さんでやる時と違って、地方で本がよく動くという話です。民放さんの場合、今は全国放送ネットワークでやっているアニメはほとんどないですからね。



片岡
アニメは良くも悪くも1クールで終わると続きがあるじゃないですか。その続きを読むために視聴者は本を買うのが大きな流れになっているし、もう一つ良いのはまだ連載している場合は連載のほうで早く最新に追いついておきたいと雑誌等に流れる。そこを上手くつないだのが「魔法使いの嫁」。最終回のエンディングクレジットのあとに、いわゆるCパート的な流れで「アニメの放送が終わって、ここで1章が終わりました。第2章は連載再開したこの雑誌で読めます。」と出たんです。それが上手くいくとまたアニメ作るんだろうなと思いました。

元々「魔法使いの嫁」の版元のマッグガーデンはProduction I.Gが持つ出版社だし、やっと自社のものをやれるいい流れだと石川社長も言ってらっしゃいました。



土橋
IPの出発点(原作)から作品をコントロールするのはビジネス的なリターンも考えると理想的ですね。TVシリーズからでしたっけ?



片岡
「魔法使いの嫁」は劇場で先にやってましたね。最近ずっとProduction I.Gは自分で出資して製作委員会もメインになられたりしていて、やっぱりコンテンツ投資とかIPを育てていく方向にスタジオが行かないとスタジオ自体が疲弊するので、ということを実践されているのをあらためて認識しました。



土橋
Production I.Gの石川社長は、単なる下請けじゃなく権利をもって作るべきと主張して、実践してきた方ですからね。


ーー おしりたんてい放送の裏話的なところ

片岡
石川社長はそういうアプローチで前を走っている人ですね。



土橋
アニメーションスタジオが自らIPの権利を確保して、運用する先駆者ってやっぱり東映アニメーションさんですよね。NHKが5/3〜5/5に放送する「おしりたんてい」は、放送権を買って、放送するんです。実は僕の子どもが「おしりたんてい」の原作をかなり熱心に読んでいるので、アニメ化できるのかもと版元のポプラ社に行伺ったら、もう東映アニメーションさんが動いていました。そこで東映アニメーションさんとお会いしたら、まだ放送局こそ決まっていませんでしたが、配信から商品化までビジネスプランができていて、さすがだなと。もし、今回NHKがやるからその制作を受けてくれみたいな話をしたら、NHKでの放送は成立しなかったと思います。こちらからの発注だと著作権の帰属の問題が出てくるので。



片岡
そういう話は聞いたことありますね。Production -IGの石川社長が、Netflixさんが良いのは、配信権以外はコンテンツの権利が手元に残り、最初からマーチャンダイズも含めてご自由にどうぞってビジネスがはっきりしているので組みやすいと話されてましたね。



土橋
そうですね。印税の分配とかもNetflixさんは主張されないと聞きました。


片岡
今私が気にしているのは、日本のコンテンツが世界に出ていくのが嬉しい一方で、配信オンリーで地上波放送からレベルの高い作品がなくなってしまったら果たしてどうなってしまうのかという観点です。コアなファンやもともとのファン、Production-IGさんのファンやボンズさんのファン、あるいはこれだって作品を押さえておきたい人は (配信に) 行きますね。いわゆるお金を払ってでも見たいという本当のコンテンツ系ファンは行くでしょうと。



土橋
問題はライトユーザーですよね。



片岡
はい。ミドル・ライトユーザーは、今でもこれだけ見る作品あるんだよと。その状況でネット配信のみの作品をどこまで見るのかというところですよね。もちろん無料系の配信もありますが、そこは放送と同じコンテンツとするとあくまで有料配信の話ですが。



土橋
大人向けのアニメの視聴は配信が随分増えた印象ですが、国際マーケットで業界の人たちと話すと、アメリカでは子供向けや幼児向けジャンルであっても配信で見る習慣が定着しているって言うんです。日本では幼児向けだとまだまだ地上波が媒体力としても強いと言われていますが、その話裏付けるように、NHKで放送中の「おさるのジョージ」も、元々アメリカの公共放送にあたるPBSの発注でつくっていましたが、直近のシリーズからはHuluの独占になってPBSじゃなくなちゃったんですよね…NHK放送文化研究所の調査でも、国内でも大人がTVに接する時間ってものすごく落ちてきていますが、子ども向けのメディアへの接触時間もあきらかに変化がみられており、近い将来大きくかわるんじゃないかと。日本ではまだTVの力が強いとは言っても、放送局としては正念場です。



片岡
そうですね。それはアニメに限らない問題だと思うんですよね。やっぱりテレビで新規コンテンツを見る文化が日本の場合は特に強い。これは会話をよく社内でするんですけど、やはり日本の放送の特徴を日本人は意外に自覚していない。日本はアニメはもちろんドラマもバラエティも新作が毎日あるし毎時間ある。翌週には次のエピソードや放送回が来る。これは世界でも例がないことです。



土橋
ものすごい物量作っているんですよね。



片岡
そうなんです。だから海外も同じ感じだと思っていたら、実は全然違って毎週やっていないし新作もそんな定期的じゃない。



土橋
海外はすごく再放送が多いですよね。



片岡
そうですね。放送時間もいろいろだったりする。つまりこれだけゴールデンタイムに新作を作る国で、しかも無料でクオリティが高い。その文化に慣れてしまった日本人は、録画も含めてお腹いっぱいになるほどコンテンツが存在している訳じゃないですか。昨今、日本の年齢構成に応じると、年配向けの番組を増やさないと視聴率があがらないので、結果的に若者が見る番組が減りがちです。

一方でネットが台頭していろいろ勝負をかける人たちが増えているので、若者を中心にネットにシフトする流れは確かにあるんですけど、テレビの視聴習慣が定着している人口構成比の高い上の年代の視聴が堅調で、ボリュームとしては当面さほど変わらないように見えてしまいます。その中で、大量伝達向きのメディアとしてのテレビで、若い人から年配まで視聴出来るドラマやアニメが放送され、それを録画したものだけでも消化出来ない人がたくさんいて、有料配信まで手を出す人は限られるのではと。



土橋
今期 (の新作アニメ) だけで60?80?結構なタイトル数です。



片岡
制作体制が追いつかないほど作品が多いという状況も、もう失速すると言われ続けていますが、むしろおっしゃったように配信系のお金が入ることでよりコンテンツのリッチ化が進んでいる部分と、ある種わざとカジュアルに「ポプテピピック」的なアプローチが一方であったりして多様化してきてます。

そうなって来たときにもう一つあるのが、(よく調査発表で言われてますが)モバイル配信で知ってテレビで見るようになった人たちの方が、モバイルのみの人よりも定着率が高いとか長時間見るという話です。やっぱりテレビ画面で見ることに回帰した人、それを多用する人のほうが固定客として定着する流れです。よって、放送としてのみならず、動画配信としてもテレビという装置は重要であるというのが、海外の大手配信事業者の調査結果なんですね。これは日本でも変わらないらしく、よく話題に出ます。コンテンツを知る場所がカジュアルなモバイルでも、最後はやっぱりテレビの大画面で見るのもあり、ということで、テレビという装置は生き残ってもらいたいですね。



土橋
(スマホを指差し)これでずーっと見続けるとたしかに疲れますよね。



片岡
スマホは小さいし、場面内容の把握も目を凝らさないとつらいし、やっぱりテレビのような大きい画面での良さとか、色味の細部、奥行き感が違います。そういう良さを知るとテレビもいいかなとなる。ぜひそういういい循環でお客さんが還れば、外や自分の部屋ではスマホで、ちゃんと見たいときはテレビでというのもありかなと。配信では一旦スマホ等に行ったけどテレビ再評価の流れがある。

そうすると配信でやっていてテレビで見られないものが問題。それこそ見逃しだったり、VODですね。放送局系のコンテンツはテレビでいつでも見られるという環境の充実が必要なんですが、業界や企業がすでに投資済みでいろいろな思惑が絡んでいてなかなか統合できない事情があります。「俺がインフラ変えるんだ~」みたいな。たぶんそれぞれのビジネス的な課題や事情がある。それはそれで分かるんだけど、そうするとあちこちに跋扈した配信事業者に可処分時間を持っていかれるぞというジレンマの中で皆さん動いている。

メーカーはメーカーでいろんな配信に対応するにはコーディング費用(移植費用)と検査費用がすごく掛かるんですね。配信事業者もテレビに載せるのは実は同じアーキテクチャのはずでも微妙にみんな違うんですね。複数のメーカーから Android 対応テレビが出てますが、1個作ったら他も動くみたいな話がありますし、Android タブレット用アプリがあるので、あと少し手を加えればテレビ対応のモノが出来るよねと思われがちですが。実際はそうでもないので、業界全体が苦労しています。



土橋
違うんですか?



片岡
違うんですねぇ。(同じ Windows 上でも異なる web ブラウザやヴァージョンで表示が壊れたりするのと同じような問題などがあります)



土橋
へぇ~~



片岡
あとUIも違います。メーカー間だと同じテレビだからリモコン操作が前提であるにも関わらず、移植してちゃんと動かして完全にクレームが来ない状態にするのにはかなり苦労します。ある意味やり直しになる感じです。


土橋
意外と難しいんですね。



片岡
そうなんです。そのコストがやっぱりメーカーの数だけ掛かる。もちろん維持も含めて。モデルが変わればまたメモリやブラウザのバージョンだったり。。。ただ最初のスタートよりは違うでしょうけど。それはそれでメーカーが全部事業者分付き合うと同じ悩みが掛け算だけあって、だから配信事業者のみならず、双方にそういうエンジニアを確保し維持をするコストがかかり続ける。



土橋
けっこうメンテナンスも大変なんですね。。



片岡
そうなんですよ。ですから業界としての理屈は一本化と言うんだけど、利権的な話と実はランニングコスト・開発コスト・イニシャルコスト及びランニングコストが双方に重荷で掛かる。そのためここを何かで解消してシェアするような機運も生まれにくいんですね。


ーー コンテンツフォーマットの多様化

片岡
配信はもちろん、放送の方も4Kや8Kなど、制作体制や管理も複雑化して来ているのではないでしょうか?



土橋
4K番組、8K番組もつくり始めてますけど、そもそも扱うデータ量が増えちゃうので編集とか大変です。あとハイビジョン化の際にも、同じようなことが起きましたが、4Kで制作したものを2Kにダウンコンバートして2K放送もやるとか、過度期は工程が複雑になりがちですよね。あと4Kと言ってもフォーマットもいろいろあるので。



片岡
HDRもね。HDRの種類もあるし。チューニング用のデータもいろいろと作り用があるんですよね。どうやって明暗部を最適化するとかね。