G プレス | 2018年6月19日
Gプレス シェイク!Vol.17 記事(2)

シェイク!Vol.17 「気になるコンテンツの見つけ方」
藤村忠寿(水曜どうでしょう)
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林雄司(デイリーポータルZウェブマスター)
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小国士朗(NHK制作局)

連載2回目は、藤村さん・林さん・小国さんそれぞれが手がけるコンテンツについて、三者三様のコンテンツの作り方について話が進む。「テレビは告知機能」がキーワード。

コンテンツの力で届けていく

藤村
藤村 
ぼくも番組作らないんですよ。「水曜どうでしょう」もね、いま、3~4年に1回しか作ってないから。


 
藤村さんってふだんなにやってんのかなって思ってました。



藤村
藤村 
DVDを作ってるの。ぜんぶ編集しなおすのって、番組作るより時間かかったりもするんですよ。で、それを出して、莫大な売上金を会社にもたらしています。広告主からお金をもらうためには、視聴率高い番組を作らなきゃいけないって、もうそれしか仕事はないんだってはじめは思ってた。でもDVDで1億近く売り上げたわけです。ひとつの番組で、地方局がスポンサーから1億もらうなんてことはありえないからね。ということは、テレビは告知機能として使えばいいんだと。


小国
小国 
激しく同意します。テレビは拡声器だと思っています。


藤村
藤村 
スポンサーからお金をもらうために、いい番組ももちろん作るんだけど、テレビの利用方法はひとつじゃない。番組が始まった1996年から現在まで、水曜日の夜はずーっと「水曜どうでしょう」を再放送し続けてるんです。DVDを売るために。番組は常に流しておく。全国に番組販売もする。でも視聴率は気にしてないですよ。1パーセントでも2パーセントでも、新たな視聴者が来るから、その人がお客さんになってくれたらいい。


小国
小国 
テレビを使わなくてもいいとすら思うんです。ぼくは個人的なプロジェクトもやっていて。


藤村
藤村 
個人的な?


小国
小国 
「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトを、クラウドファンディングで500人近くの方からご支援いただいて実施しました。認知症の方が注文をとって配膳をするレストランで、たとえばハンバーグを注文しても餃子が来る。間違いを受け入れて、一緒に楽しんじゃおうっていうイベントを昨年の6月と9月に東京でやりました。


藤村
藤村 
それは、NHKの仕事っていう扱いになるわけ?


小国
小国 
ならないですね。番組作んないし、レストラン作りたいって言い出すしで、NHKも戸惑ってて(笑)。


藤村
藤村 
まあ、そうだよね。


小国
小国 
結局、草野球やバンド活動と同じ「余暇活動」という扱いで、自由にやっていいことになったんです。テレビをいっさい使わないで、どれぐらい認知症のことを届けられるのかなって実験してみたら、料理店っていうリアルイベントをやったほうが、番組よりも届くレンジがはるかに広かった。だって、アルジャジーラとニューヨークタイムズと中国のCCTVが一緒の場所で取材してたんですよ。世界150カ国に届いた。すっごい新鮮でした。これがコンテンツってことなんだなって。面白ければウェブやSNSでどんどん広がっていく。もうテレビはデバイスのひとつでしかない。


藤村
藤村 
小国さんみたいな見方をしてる人ってあんまりいないの。なんであんなに視聴率を上げることに躍起になってるんだろうって思う。そういうところにいるのも嫌で。


小国
小国 
いつぐらいからそういう思考回路になったんですか?


藤村
藤村 
「水曜どうでしょう」が面白いから、単純にもう一回作り直したくて。そのときちょうどDVDというメディアが出たころだったんで。DVDだったら尺は関係ないと知って、自由に作り直すのは楽しそうだなって。で、作って売ったら、売れた。だからまあ、自分のやりたい仕事、やりやすい仕事を考えていったら結果そうなりました。


小国
小国 
テレビの役割が自分のなかで変わったんですね。


藤村
藤村 
そうそう。番組をずっと作り続けるのは、あんまり興味がなかった。


小国
小国 
まるっきりぼくと同じです。ネットもテレビも使いようです。


 
「注文をまちがえる料理店」はいい話として広まったけど、そうじゃないって話、前にしてましたよね。


小国
小国 
もともとは「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、認知症介護のプロを取材したときに思いついたんですよ。取材先のグループホームは「認知症であっても最期まで自分らしく生きていきましょう」という方針で、介護職の人はそれを支えているんです。だから、みんな料理を作るし、掃除洗濯もやる。場所が名古屋だったので喫茶店文化があって、おばあちゃんがモーニング食べに行ったりもするんですね。で、取材中、おじいちゃんおばあちゃんたちが、ぼくらのために食事を作ってくれることが多くて。そんなある日、献立はハンバーグだって聞いてたのに、出てきたのが餃子だった。ひき肉しか合ってない。でも、誰も気にしてないし、みんな美味しそうに食べている。その時に気づいたんです。間違いは、その場にいる人が「まあいいよね」って言えば間違いじゃなくなる。そのとき「注文をまちがえる料理店」っていう名前が浮かんで。このグループホームで出来ていることは素敵だから、これを街の中でもやりたいなと思った。



藤村
藤村 
そのときのお客さんの反応見てみたいなー。やっぱ面白そうだもん。

小国
小国 
そうそう。反応を見たかった。どうなっちゃうのかなっていうわくわくが止められなくて。

 
認知症の話をテレビでやると暗くなっちゃうけど、イベントだと明るいですよね。


小国
小国 
そうなんです。明るいんです。やってみたら「寛容社会の体現」とか「価値観の転換」とか、いい話として評価されたんですけど、そこは思ってなかった。でも取材でそう話しても記者の方が納得しないんですよ。

 
どういうコメントを求められてるか、自身もテレビ番組を作ってたからわかりますよね。


小国
小国 
いやー反省しましたよ。あの言わせようとする感じ、圧力だなあって。


藤村
藤村 
林さんもそうだもんねえ。高さ3メートルの巨大ガチャガチャのね。


 
いらないものを入れるといらないものが出てくるガチャガチャです(欲望の永久機関 巨大いらないものガチャ )。たんに、「わーいらねー」っていう顔が見たかったんです。そのいらなさが面白いんで。


藤村
藤村 
おれも一回やったんだよ。ゴミはダメなの。なんでいらないか、理由も紙に書かないといけないんだ。もらった人が捨てられないように。重くなるように(笑)。

小国
小国 
背負わせるんだ(笑)。


藤村
藤村 
ポケット探ったら、持って帰っちゃった居酒屋の靴箱の札が出てきたからそれにした。「できれば探して返してください」って書いて。で、ガチャガチャ回したら、アニメキャラのフィギュアが出てきた。昔大好きだったけど、今は別のキャラが好きって書いてあったの。いらねーなこれって(笑)。


 
なんかいい話みたいに取材されましたね。リサイクルという真面目なテーマにエンターテイメント性を持たせたのがいいって言われて。そういうコメントを言えって圧があって。


藤村
藤村 
それ言わないかぎり、「そうですかねー?」っていうね。絶対にいい話をさせようとするもんね。