G プレス | 2018年6月21日
Gプレス シェイク!Vol.17 記事(4)

シェイク!Vol.17 「気になるコンテンツの見つけ方」
藤村忠寿(水曜どうでしょう)
×
林雄司(デイリーポータルZウェブマスター)
×
小国士朗(NHK制作局)

連載4回目は、藤村さんがいまやっている動画をアップしない動画チャンネル「藤やんとうれしー」の話から始まり、NHKにはNHKでしか出来ないことをやって欲しいという話まで飛び出します。まだまだ着地点が読めないセッションをご覧ください。

セオリーを破壊する番組作り

藤村
藤村 
うちの会社が「北海道onデマンド」という動画サイトを持っていて、そこにぼくと、同じくディレクターの嬉野雅道さんの二人のチャンネル「藤やんとうれしー」があるんです。ここには動画をほぼ上げてないんですよ。めんどくさいから。で、月1000円取ってる。


小国
小国 
新しいなー。それでマネタイズできてるのがすごいっすね。


 
もはやコンセプトアートだ(笑)。




藤村
藤村 
月1000円払うと、Facebookグループにも入ることができます。いま1000人ちょっといます。


 
グループに藤村さんがコメントしたりするんですか?


藤村
藤村 
活動のメインは飲み会です。寄り合いと呼んでいます。何月何日に、ぼくと嬉野さんが東京出張にいくんで、寄り合いやりましょうって呼びかけたら、幹事が手を挙げてお店を押さえてくれる。


 
イベントじゃなくて、純粋な飲み会なんだ。


藤村
藤村 
 「北海道onデマンド」は会社の事業だけど、ぼくがやるのは飲むことなの。こんなにいい仕事ないわけですよ。たまに怒って退会する人がいるらしいです。動画サイトで会費とってるのに、動画が上がらないじゃないかと。


 
それ、正論ですよね。怒ってる人ってたいてい正しい。


藤村
藤村 
それで退会するのはしょうがない。もともと動画上げる気がなかったんだよなー。集金システムに使いたくて、入り口借りただけで。


 
スマホで撮って上げたりしてもいいんじゃないですか?


藤村
藤村 
めんどうくさいじゃないですか。


 
あんなにめんどくさそうな番組作っておいて、めんどくさいって。


藤村
藤村 
あの番組、そんなめんどくさくないって。




小国
小国 
ひさしぶりに「水曜どうでしょう」を見返して、ぜんぜん古びてないなって思ったんですよ。ネット的ですよね。編集のスピード感とか、ホテルから動かないでずっと喋ってるのとか。これを20年前にテレビでやってたってことで言うと、昔のテレビにはネットっぽいところもあったんですよね。でも、そういうところはもう捨てているし、ネットもどんどん真面目になっていっている。


藤村
藤村 
ずっと年上の、テレビ創世記の人たちと話をするのが好きなのよ。そのころって定型がないから、生放送でドラマ作ったりと、いろんなことを試してた。ぼくらぐらいの年代になってくると、もう番組のセオリーがあるから、それを追うんだよね。ローカルで夜のバラエティ番組作るっていったら、すすきのでインタビューとか、大通公園でロケとか、決まってるじゃない。ダウンタウンの番組より面白い番組作るなんて誰も思ってなくて、ローカルという狭い世界のなかで勝負しようとしてた。それは壊していくもんだってぼくは思ったんだよ。違和感あるな、おかしな人がやってるんじゃないか、ぐらいのインパクトがないと、ローカル局で番組作ったところで勝てやしない。


小国
小国 
なるほど。


藤村
藤村 
自分たちが面白いと思ったものを作ったことで、今までとは違うものになった。


小国
小国 
だからあれ、発明ですよね。日本中のローカル局で真似されてたじゃないですか。サイコロ、とりあえず振ってみる。チャリンコ乗ってみる。ぼくは学生時代に仙台にいて「水曜どうでしょう」の廉価版みたいな番組を見てたんですけど、やっぱ、画面の色が違う。「水曜どうでしょう」は、妙に濃いんです。「男子校感」があって。ぼくが男子校出身だからそう思うのかもしれないですけど。


藤村
藤村 
おれらの場合は、作り方も変えてたからね。ふつうだったら、一ヶ月分の予算はこれで、じゃあこれで何週分撮りましょうって計画を立てるけど、そういうことをしていない。あの番組の予算をいまだに知らない。


 
なんでそれが可能なんですか?


藤村
藤村 
海外ぽーんと行って、1週間ぐらい濃密な旅をして帰ってきて、編集して、放送が始まってもまだ編集してて、それがぜんぶで何週になるかわかんない。そういうふうに作る。最初にこれで2週分撮りますって、決めたとたんに、トークが薄くなるんですよ。


 
じゃあ、あえてその方法をやってた?


藤村
藤村 
これがねー、人間性なんだろうね。2週ずつ作るとかめんどくさいの。


 
決められるのが嫌なんだ。


小国
小国 
納期とかね。


藤村
藤村 
うん。納期決められるのがいっちばん嫌。だから、1ヶ月半番組やったら2週間休んでた。正月盆暮れは1ヶ月休み。


 
休みの間は何を流してたんですか?


藤村
藤村 
再放送(笑)。「どうでしょうリターンズ」って名前で、2週間流してもらう。で、また本編新作始まるのよ。そしたら視聴者は再放送の続きどうなったの? って思うじゃない?


 
そうですよね。


藤村
藤村 
1ヶ月半後に続きを流す(笑)。

小国
小国 
飛び地なんですか。


藤村
藤村 
最初は「あれ?」ってみんな不思議に思ってたらしいんだけど、だんだん慣れてわかってきてくれた。


 
藤村さん、ボケっぱなしじゃないですか! そんな、番組の枠使って1人でボケるって。ネット時代だったらツッコまれてましたよ。


藤村
藤村 
最後もね、最終回は何月何日って告知打ったのに、2週延ばしましたよ。入り切らなくて。最終回に、すみませんまだありますって謝って。次も入んなかったから、無理やり編成させて、45分の拡大版にしてもらった。だって、ものを作るときにね、「2週分撮ります」って言った瞬間にね、会話は間延びもするし、作るほうもなんか入れなきゃーって、どうでもいい食事シーン入れようとしたり。どうしても薄くなっちゃう。でもあれがテレビの作り方だと思ってる人も多いから。

小国
小国 
その呪縛って強いですよね。


 
ネットの記事でも、すごい先までスケジュール決めて前もって納品するライターがいますね。それが嫌ですぐ載せちゃう(笑)。「昨日やってみた」みたいなのがいちばん読みたいのに、なに前もって納品してんだよ。


藤村
藤村 
ぼくはNHKには、我々ができないようなことをやってほしいんですよ。北海道地区って、夕方のワイド番組の視聴率争いがすごいのよ。全局で4時間とかやってるわけ。それをNHK札幌がやりだしたときに、ああ、このひとたちはダメだなって思った。民放と同じものをやった瞬間に、NHKの存在価値はなくなる。たとえば昼間の視聴率40パーセントを、ぼくらが奪い合ってる間に、NHKはテレビの価値をさらに上げて、50とか60にしてほしい。ぼくから見たら、NHKが羨ましいですよ。あんなバカみたいに金かけて、ダイオウイカを見つけにいくとか(注:2013年1月、生物学者とNHKの調査チームにより、生きているダイオウイカの動画の撮影に世界で初めて成功。NHKスペシャルにて紹介された)。

小国
小国 
ダイオウイカ、10年追いかけてたんです。


 
イカを見たあとの博士の顔、あれすっごいよかった。ぽかーんとしてて。


小国
小国 
危なかったのが、あのあと、兵庫県で、ダイオウイカを漁師が生け捕りってニュースが出て。


藤村
藤村 
こっちは10年かけて、深海にも行ったのに(笑)。


 
あんな秘密メカみたいなの作ったのに(笑)。


小国
小国 
漁師生け捕りって勘弁してくれよっていう(笑)。NHKが放送したあとだったからよかったなぁって思いましたけど。