読売テレビ放送株式会社
制作局東京制作部プロデューサー

※役職等は収録当時のものです

勝田 恒次さん

G プレス | 2016年5月16日
GPRESS vol.140 ダウンタウンDXのPR動画で再生数100万回突破   脅威の記録の舞台裏は?

ダウンタウンDXのPR動画で再生数100万回突破
脅威の記録の舞台裏は?

2015年10月1日に放送された「ダウンタウンDX」(読売テレビ・日本テレビ系)2時間スペシャルのPR動画の再生回数が2週間で100万回を突破した。驚異の再生数を記録した動画制作の秘密を読売テレビ放送株式会社制作局プロデューサーの勝田恒次さんに語ってもらった。

GPRESS vol.140 / ※ 2016年 1月22日、電通ホールで行われた講演 より
勝田 恒次さん

読売テレビ放送株式会社
制作局東京制作部プロデューサー

かつた こうじ 1993年、読売テレビ入社。以来、一貫して制作業務に携わる。 現在は、同社制作局(東京駐在)勤務。「ダウンタウンDX」「浜ちゃんが!」「ガリゲル」ほかプロデューサーを担当

入社以来、23年間「ダウンタウンDX」担当していますね。

 1993年に入社して、1年目から本社制作勤務となり、その年に「ダウンタウンDX」がスタートして、私はアシスタントディレクター(AD)として携わりました。入社以来23年間、一貫して同じ番組を作っています。自分ではあまり自覚していなかったのですが、全局見回しても相当珍しい存在じゃないかと思います。

インターネットを最大限活用したPRを考えたのは。

 プロデューサーの役割というのは、番組の構成や制作費を管理したり、タレントのキャスティングをしたり、スタッフや放送の環境整備など、さまざまな仕事を何人かで割り振ってやる感じだと思うのですが、自分の役割として他に視聴率アップに貢献できることはないかと思いました。そこで思いついたのが、ネットの最大活用でした。記事と同様、PR動画もこだわって作ってみようと。

100万回再生された動画はどんなものですか。

 動画は、その時(ダウンタウンDX2時間スペシャル)のゲスト・高須クリニックの高須克弥院長が作った「(お笑いコンビ)おかずクラブ」の整形モンタージュと、橋本マナミさんが蛭子能収さんのお腹を 触るシーン、大和田伸也さんが指人形で遊ぶ隠れた趣味、叶姉妹さんの総額約13億円の私服コーディネートをつないだ約1分の映像です。これがヤフー映像トピックスで、放送前後の各1週間、計2週間で100万回以上再生されました。

インターネットを最大限活用したPRを考えたのは。

 単純に、「郷に入れば郷に従え」を実行したまでなんです。ヤフー映像トピックスの関係者にお会いする機会がありましたので、その際「どうすれば見てもらえると思いますか?」と直接聞いてみました。すると、その方はこう答えました。

「お金、美容整形、このキーワードが一番刺さる」と。
なるほど、と思いました。つまり、
「女性週刊誌の表紙を作るつもりでやればいいのかな」と思ったんです。

 また、「ネットの方が情報が早いので、テレビ初出しの見出しはそんなに響かない。かといって、知らない人の知らない情報にもそんなに食いつかない。『知っている人の知らない一面』っていうのが一番見てもらえます。」。さらに、「通常のテレビのPR映像でやりがちな『ピー音』や『モザイク』はユーザーが嫌います。短いながらもそれだけで満足するような、『一つの作品』として見せるほうが良い」というアドバイスしてくれました。正直、最初は半信半疑でしたが、信じてやってみようと。

 やり始めて約1年ぐらいでしょうか。スタッフもやり方を熟知するにつれ、再生回数が徐々に上がってきました。そんな中、題材的に最もふさわしい放送回がやってきました。それが、この「ダウンタウンDX2時間スペシャル」だったんです。そこで、これまでの法則をフルに活用してやってみようと思いました。

 まずキーワードその①「美容整形」は、ゲスト・高須院長がおかずクラブで整形シミュレーションをしたら面白いんじゃないかと。そしてキーワード②「お金」は叶姉妹の13億円の私服をたっぷりと見せる。キーワードその③「知っている人の知らない一面」は、橋本マナミさんが「中年男性のポッコリしたお腹が好き、その中でも蛭子さんのお腹が最高」との話を聞き、蛭子さんを実際に仕込んで実行。また大和田伸也さんが自宅で密かに楽しむ「一人指人形劇」を実際にやってもらった映像を入れました。

 さらにキーワード④「極力モザイクなし」も実施。通常のPR動画だと、おかずクラブの加工後の顔や、お腹を触られている蛭子さんの顔は隠すのですが、それをやめました。叶姉妹さんの「スターの私服」だけは、ゴージャス感を放送まで引っ張りたかったので、(総額13億円の衣装を)多少モザイクで隠しましたが。

 このように、ある意味狙ってやったので、(100万回再生の)結果は大きな自信に繋がりましたね。映像トピックスに映像をアップする作業は番組の若手スタッフたち(AD)にやってもらっていますが、やればやるほどプレビュー数が上がるので、モチベーションも上がっていくんですよね。自分の作品を多くの人に見てもらえるということが、スタッフ間のいい競争になって、作る意欲にもなっていると思います。

他のネット媒体はどう活用しましたか?

 他にやっているのは、番組公式ツイッターとフェイスブック、ユーチューブ動画、公式LINEなどですが、これらも同様に『メディアに合わせて番組の色を出す』イメージでやっています。制作者はどうしても番組の色を一方的に出したくなりますが、そこを極力押さえて各媒体に沿って行く感じです。それらを機動性や意思疎通の良さを考え、最少人数でやっています。

具体的な手法は?

 まずツイッターですが、「波に向かって叫ぶようなもの」と教えてもらいました。要は何回何十回つぶやいてもいい。その人にとって興味ないものは波のように消されていくけど、気になるキーワードがあれば拾われて拡散されると。実際タイムライン上も流れていきますしね。それで気にせずガンガン投稿するようにしました。ひとつの放送回で30〜50ツイートしているでしょうか。内容を書いたり、ゲストさんが書いてくれたことをリツイートしたり、放送前日にゲストのアカウントも添えて大量投入したり。私とスタッフ計2人で日々やっていますが、約2年でフォロワー数1万2000人強というところです。もう少し増やしたいところですが。

 次はLINEですが、これは「隣の人にささやく感じ」が効果的だと教えてもらいました。つまり、何回も書き込むと、「うるさい」と感じられて耳を塞がれる(ブロックされてしまう)と。実際良かれと思って記事をたくさんアップしてみたら、本当にかなりの数ブロックされました(笑)それに懲りて今は、1回の放送につき1〜2回しか投稿しません。ただし、他のSNSと内容を変えたり、スタンプを使ったりしてLINE風味を出してます。「隣にささやく」=「あなただけに伝える」密室的イメージなので、ちょっとしたプレゼントなども効いてくる感じが実感としてあります。これも2人で作っていて、現在の友だち数(登録者数)は49万人位です。

 あとフェイスブック。ツイッターなど他のSNSに比べてなかなか登録数は増えませんが、一旦登録したら滅多に離れていかない「熱烈な番組ファンが多い」と聞きました。そこで、ほかよりディープな番組情報やフェイスブックだけで見れる撮り下ろし写真・記事を投稿しています。こちらも2〜3人でやっています。毎日コツコツ増えて、今ページいいね!が6300弱ですね。

ほかに工夫は?

 このように各SNSの特徴を生かしてやっていますが、さらに呼び込めるように、お互いの事を書きあってます。ツイッターで「フェイスブックでこんなこと書いてるよ」「LINEではこんなこと書いてるよ」と書いたり、ほかでも同様に書きます。さらに、それら情報を一度に見れる場所として公式ページを作り変えました。PR動画、ツイッター、フェイスブック、LINEほか番組情報がそこですべて一気に見れます。いわゆる「ハブ」にした感じです。

 もちろんIPGさんのEPGも2012年よりしっかり活用しています。おそらくSI番組名に正式番組名以外のサブタイトルやキャッチを付けたのは「ダウンタウンDX」が最初だと思いますし、さらに写真やVTR、書く記事もつねに変化に応じて進化させていってます。すべてはあくまでもDXで始めたやり方なので、どこまで皆さんの参考になるのか不安ではありますが、こうしたことが100万回再生につながったと思います。

同じことを実現するために必要なことは何でしょう?

 大事なのは、「ネットやSNSを活用するのに大人数じゃないと動けない」とか「それをやるにはセクションが違うから、別々だから」とは思わないこと。そしてセクショナリズムの垣根を越えて番組のために一致団結すること。この2つができれば大丈夫です。日頃番組に関わってないチームなどにお願いしたら、お金も時間もかかりますし、説明してもなかなか真意が理解してもらえず、大変ですから。

 「ダウンタウンDXチーム」は少人数でも最大限に結果が出せることはないかな、という入口から入ってここまでやってきました。特に動画は、自分の作品をアップすることで、再生数が上がったり、番組の視聴率が上がったりするのをモチベーションにして、4〜5人いる若手スタッフ(AD)に競わせました。どの人が作ったものが一番見られているかすぐに分かりますから、とても刺激になりますし、完全に日々の作業に組み込まれてますね。

 コンテンツだからとか、宣伝だからとか、制作だからみたいなことで気負ってやるのではなく、肩肘張らずにやることが一つの手かなと、私なりに思います。放送の事前と事後をリンクするものがテレビ業界も今後ますます必要でしょうから。そんな感じで身近なところから気軽に始めてみるのもいいのではないでしょうか。