G プレス | 2018年4月13日
Gプレス シェイク!Vol.15 記事(1)

シェイク!Vol.15 「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」
空門勇魚(NHK制作局第1制作センター青少年・教育番組部ディレクター)
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ライラ・カセム(デザイナー・大学研究員)
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森永 真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

 異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。第15回は「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」というテーマで、意外と当事者でないと分からない話題について、忌憚ない率直なやり取りが飛び交うトークセッションとなった。
『バリバラ』の発案者でもあり、現在はNHK Eテレ『Rの法則』のディレクターの空門勇魚さん。フリーランスのグラフィックデザイナー、そして大学研究員として活躍するライラ・カセムさん。そしてシェイク!には何度もモデレーターとして出演いただいている博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓さん。この三人によるトークセッションの模様を全5回シリーズでお届けする。

障がい者が使いづらいトイレはなぜ生まれてしまうのか?

森永
森永 
モデレーターをつとめます、博報堂DYメディアパートナーズの森永です。

空門
空門 
NHK制作局の空門と申します。自己紹介代わりにぜひ動画を。

動画 内容紹介 
世の中のちょっと不思議なバリアフリー設備を紹介する企画「バリバラ珍百景」。
渋谷のNHK放送センター正面玄関の多目的トイレに珍百景疑惑がかけられた。空門ディレクターが調査に向かう。
車椅子を便器に横付けするため、便器と壁の隙間に入ろうとするが、洗面台が邪魔で車椅子が入らない。
反対側の隙間も狭く、ゴミ箱やトイレットペーパーにぶつかってしまう。
さらに、トイレットペーパーホルダーにギザギザのカッターがついていないため、片手でちぎることができない。
調査の結果、珍百景疑惑は本当だとわかる。


空門
空門 
今流したVTRは8年前に作った、『バリバラ〜障害者情報バラエティー〜』の前身となる番組です。『バリバラ』というタイトルで正式に始まったのは6年前、2012年ですね。

森永
森永 
『バリバラ』が世間的に話題になったのって、2年前の、某汐留のテレビ局の障がい者を取り扱った番組が「感動ポルノグラフィだ」って批判したときですよね。

ライラ
ライラ 
けっこう最近なんですよね。

森永
森永 
番組自体はもっと前からやってたのにねっていう。さて、もうお一方はライラさんです。

ライラ
ライラ 
ライラ・カセムです。グラフィックデザイナーとして、書籍のデザインやCDアルバムのデザイン、商品開発などをしています。東京の大学で研究員もやってます。デザイナーとして障がい福祉施設に関わり、インクルーシブデザインの手法を用いて、知的障がいや精神障がいの方のアートを用いた作品や商品開発をしています。いちおうね、私自身も障がいがあります。

森永
森永 
さっきね、打ち合わせのときに空門さんが「ライラさんの障がいって何だったっけー?」って言って。そういえば私も聞いてなかったなーと。

ライラ
ライラ 
ずっと会って話してたのにね(笑)。

森永
森永 
忘れてたわーみたいな(笑)。でも、無意識に「聞いたら失礼だ」とか思い込んでたのもあったかもしれません。空門さんがサラッと質問してて「あ、たしかに、お互いのためにも聞いたほうがいいし、失礼とか思ってることがそもそも失礼だな」と思い直しました。

ライラ
ライラ 
脳性麻痺があって、長くは歩けないので車椅子に乗っています。自転車のように車椅子を使っているかんじですね。自分では中途半端な障がいって呼んでます(中途半端に物事ができたりできなかったり)。さっきのVTRを見て、片手ではペーパーを切れない人がいるんだって気づくことができました。

森永
森永 
空門さんの紹介してくださった動画を見ていて気になったのですが、利き手と逆の位置にペーパーがあると使いにくいとかってあるんですか?

空門
空門 
多目的トイレと言っている以上は、いろんな障がいに応じて使えるようにするべきなんです。ぎざぎざカッターがないタイプのトイレットペーパーホルダーは、片手で押さえながら片手でちぎるわけです。たとえば半身不随で片側のどちらかが動かないとなると、ペーパーを切れなくなる。

森永
森永 
昔、スノボでずっこけて右肘を脱臼したんですよね。そのときまさにトイレットペーパーうまく取り扱えない問題が発生しました。右手怪我してると「お箸とか大変でしょう」とか言われるんですけど、箸を持てない以前に、私は今、病院を出た瞬間にトイレに困っている。切実な気持ちを思い出しました。

空門
空門 
ちなみにこのロケのときは、現場で3時間喧嘩しました(笑)。当時大阪の放送局に勤務していて、渋谷のNHKに珍百景疑惑のトイレがあるらしいって嗅ぎつけて行ったんですね。本部の総務が「これ、放送に出すんですか?」と乗り込んできました。最終的にロケを敢行したんですけど、総務はロケの3日後にトイレの改修工事を急きょ始めました。

森永
森永 
やってみるもんですねー。

空門
空門 
「バリアフリー対応になったことも放送で紹介してください。」と頼まれました。


森永
森永 
他に、トイレで困るシチュエーションはありますか?

空門
空門 
車椅子用トイレでいちばん困るのが、折りたたみ式のベッドですね。広げたときに入り口をふさぐタイプのものがあって。誰かが使ってそのまんまにして出ちゃうと、次の人はもう入れないです。他にもいろいろありますねー。手すりを付けてくれるのはいいんですけど、ドアノブと壁の間が10センチぐらいしかないと、車椅子がぶつかって手すりに届かへん。

ライラ
ライラ 
一ヶ月ちょっとイギリスに行っていたんです。帰ってきて、日本って説明のステッカーが多いなと気付きました。今日、新宿で乗り換えたんですけど、エレベーターのボタンの隣にステッカーがあったんですね。この中心のボタンを押してくださいっていう。で、おばちゃんが一生懸命そのステッカーを押してるんですよ(笑)。利用者に気遣いをしすぎて余計にわかりにくくなっている。障がい者トイレもステッカーでごちゃごちゃしている。とりあえず設置して注意書きをつければいいという考えで、シミュレーションはあまりしていないように感じます。トイレによってもデザインが色々あって、スタンダードがはっきりしていない。


客席A
客席A 
ぼくは右腕の筋肉をうまく扱えない障がいを持っています。でも、トイレットペーパーの紙を切るときは工夫してやっているので困ることはないです。無理にペーパーを引っ張らなくても、やり方はあるんじゃないでしょうか。

空門
空門 
そうですね。自助努力で工夫したやり方を編み出すのも大切なことですけど、「ハードがおかしくない?」って口にすることも大切だと思っています。

ライラ
ライラ 
基本的なことを実行できない人に対して、ハードの面で配慮してないわけだから、それは提供してる側に問題がありますよね。

空門
空門 
あの企画は、ハードがおかしいという話がしたくて立てたものなので。とはいえ、みんなの自助努力のテクニックもどんどん世に出していくべきだと思っています。

ライラ
ライラ 
障がい者が困りごとや工夫について話すことは、クリエイティブな商品が生まれることにつながります。私が用いているインクルーシブデザインという手法は、「障がい者のために」ではなく「障がい者とともに」というものなんです。

森永
森永 
ヒアリングが大切、ということですか?

ライラ
ライラ 
積極的にデザインのプロセスに取り込むんです。たとえば「片手でも使いやすい絆創膏を作ろう」というプロジェクトのワークショップの例があります。リウマチのある人、視覚障がいのある人、両腕のない人と実際に会って、ヒアリングして、障がい者の困りごとを自分ごととして受け止める。試してもらって観察する。それは新しいアイデアを生み出す刺激になります。最終的にパッケージで解決したんですね。個包装をやめて、三角形のパッケージから絆創膏の端が飛び出すようにしてあって、それを引っ張り出して貼ることができるんです。あー、見せたい! 持ってこればよかったー!

森永
森永 
人の工夫の話を聞くのって面白いですもんね。

ライラ
ライラ 
それは障がい者が社会参加して貢献する方法にもなるんですよね。インクルーシブデザインでものづくりをするときに重要なのが、いかに多様性のある人を見つけてくるか。私の母は、インクルーシブデザインのワークショップのプロデューサーをしています。その母が「自分と真逆の人生を歩んでいる人と会ってみな。それが一番の解決策だよ」と言っていたんです。ポップミュージックが好きなら、ハードロックを聴いてる障がい者に会ってみる。違う人間と話すこと、それが糸口になります。

森永
森永 
日本のトイレのバリアフリー事情に問題があるのは、作る人が全くヒアリングしてないからなのでしょうか。それとも特定一部の人にしか聞かないからでしょうか。

空門
空門 
一時期トイレをひたすら取材してたんですよ。公園などの公共のスペースにあるトイレは自治体の管轄なんです。いくつかの自治体に問い合わせたところ、トイレのガイドラインがあるとわかりました。問題はそのガイドラインをいつ作ったか。聞いてみたら、40年前や25年前のものを使っているところもありました。また、色々な障がいのある利用者にヒアリングや検証に協力してもらって作ることも大切だと思いました。

シェイク!Vol.15 「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」